「好き……。彼が、好き。でも付き合いたいとか、キスしたいとかじゃないの。ただあの場所にいて、私の特別で、私を特別視して欲しい……」
 つい、口にしてしまっていた。歩咲、と花乃子が呟く。この気持ちに、答えが欲しい。答えをくれないだろうか。そう思い、俯いていた顔を上げた。
「お子ちゃまだな」
 しかし返ってきた答えは、思ったものとは違って、冷たいもの。私はたまらず屋詰さんを睨み付けたが、彼は呆れたようにため息を吐いた。
「君の独白なんかどうでもいい。じゃあ君は、十年後も、二十年後も、そうありたいのか。俺は一生一緒にいる気がないなら身を引けと言ったんだ。君がその気なら、俺だって認めたさ。でも君は……君だけじゃない、全く、あいつも。馬鹿馬鹿しい」
 意味が分からない。黙って睨み続けていたが、花乃子が手に触れてきて、我に返る。
 真摯に私の目を覗いていた。
「私もそうだよ。ちゃんと、太郎さんの言葉を覚えていて。忘れないで。今のままではあまりに不健全、それだけだから」
 その瞳に、心配の色を滲ませている。自分の中で敵意が萎んでいくのが分かった。俯いて、ごめんなさい、と屋詰さんに謝罪をした。
 二人が帰ると神崎さんが近寄ってきて、肘で小突いてきた。
「あれって、屋詰先輩だよね? 一緒にいた人は彼女?」
「ああ、そうだよ。彼女の方が幼なじみなんだ」
 食器を流し台に置き、慌ただしい片付け班を横目に、神崎さんは、いいなあ、と両手を合わせた。
「屋詰先輩人気なんだよお、ほら、一緒にいる望月先輩と一、二を争うくらい。あれ、てことは、屋詰先輩を紹介したのって……?」
 ぎくりとした。確かに、他校の幼なじみとの関係性の方が強いのだからそう思われても可笑しくない。だから間髪入れずに首を横に振った。