酷い娘だった、と今でも思う。母にたくさんの罵倒を浴びせた。妹の蒼菜ばかりを可愛がる母を憎み、妹を恨み、無関心でいる父を嫌った。もう戻らないのは、私たちの関係だった。
 私は汚い人間だ。人が傷つく言葉がわかるから。
 それから、母は徐々に私の言葉を、私の声を、私を、シャットアウトしていった。母の防衛本能が働いたのだと思う。あのままでは壊れてしまうところだったから。
「お母さんには、優しくするんだもんな……」
 父は病みそうな母を支え、初めて私に敵意という名の関心を向けた。
「それ以上お母さんを傷付けるならお前は捨てる。俺はその覚悟が出来ている」
 そう言われてようやく私は暴言を吐くのをやめる。その時になってやっと母には私が見えていないことに気が付いた。
 父にとって母は愛する人なのだから当たり前だが、じゃあ私は何だったのだろう。父にとって、私は生活の一部に入っていなかったのかもしれない。
 蒼菜は、そんな私にも無邪気に接してくる。私がやったこと、私が父に拒絶されたこと、知っているはずなのに、何も知らない顔をしてくる。それが、また嫌だ。
 ため息が出た。
「寂しい、か……」
 そんな感情があるなら、きっとこれがそう。夜が訪れなくてもいい、ただジッと時間が過ぎ去るのを待った。