「で、しかも焼きおにぎりなんだもん。本当に好きなんだな」
「好きだよ。いいじゃん、おにぎりは素晴らしいんだよ。大きくても小さくてもまとまってるからパッパッと食べられる」
「十個も平らげてるしな」
「伝説みたいに何回も言うじゃん……」
「伝説だよ! 細身の女の子があんなに食べるなんて思わないじゃん」
 それなら一発芸として大食いを出してみるのも悪くないかもしれない。まあ、おにぎり限定だが。
「そう言う望月くんのクラスは? 何するの?」
「俺のところは、よりにもよってお化け屋敷だよ」
 身震いしている彼を見て、そういえばホラー番組に怯えていた姿を思い出す。よりにもよって、のところを強調して言うものだから思わず笑みが零れた。
「所詮文化祭クオリティだよ、大丈夫」
「だと思うだろ? うちのクラスに特殊メイクを極めたい子がいて、その実験台として今回のお化け屋敷が選ばれたわけなんだけど、これがもう……恐くて恐くて。ああいうメイク見ると、夢に出てきそうだ」
「実際に夢に出てくるのは私なんだけどね」
 ぷるぷる子鹿のように震えているから軽口を叩いてみたが口元に申し訳程度の笑みが浮かべられる。滑ったみたいじゃないか。
 それにしても、それは楽しみだな、と思い、つい前のめりになって聞いてみた。
「てことは、人間が襲ってくるってこと?」
「そうそう。もちろん仕掛けもするけど、基本的には、後ろから追いかけられたり、横から飛び出したり、かな。俺は小道具だから助かったよ。あんなメイクされたら、自分の顔見れなくなる」
 ふう、とため息を零してやっと落ち着いたらしい。ちょっと気になって、聞きたいことを聞く前に立ち上がった。私を見上げた望月くんが首を傾げ、そんな彼に手を差し出した。
「どこ行っても同じところだけど、ちょっと歩かない?」
 私の手を取って、引っ張ってあげると立ち上がって二人並んで歩き始める。