「するわけないでしょ。蒼菜、あの時いなかったから知らないだろうけど、私、当時感じてた気持ちをちゃんと伝えたんだよ。でも駄目だった、私の話なんか聞こえてないみたいだし、お母さんの目、ずっと私を睨みつけてる。結局私だけ悪者にされちゃった。話が通じないんだよ、あの人たち」
 つい早口で捲し立ててしまう。すると、募っていた苛立ちが加速して、口元を意地悪に歪ませていることに気付いた。急いで両手で頬を揉む。それから落ち着くためにため息を落とした。
「でも、蒼菜がいると気が楽かな」
 フォローのために言ってみたが、ふむ、と考える仕草をして蒼菜は黙った。
 だが実際、気が楽だ。両親といると居心地悪く、早くどっかへ行きたくなるが、妹がいると、そんな私を繋ぎ止めようとしてくれる。まるで風船。彼女が私の逃げたくなる気持ちを紐にして握ってくれている。以前までは無理やりだったが、今は握られているのも悪くないと思える。
「よし、こうしよう!」
 急に大声を上げたものだから驚いたが、蒼菜はそんな私の両肩を掴んで、名案だと言わんばかりに目を輝かせて提案した。
「旅行しよ! みんなで」
「はあ? 嫌だよ」
「そうと決まればお父さんに言わなきゃ」
「聞け」
 突っ込んでみたがやはり聞こえていないらしく、どこがいいか話し始めた。まあお父さんも行きたがらないだろう、と高を括り、花乃子と合流して、その話も終わりを迎えた。
 学校はすっかり文化祭ムードだ。放課後にもなると十月の中頃に向けて、あちこちで準備が始まる。
 私のクラスは焼きおにぎり屋をすることになった。クラスで浮いていた私だが、思い切って提案してみるものだ。まさか採用されるなんて思わなかった、と看板を作りながら思う。