「気にしてなかったよ。お姉ちゃんが一人で行ってって拒絶してくれたから、ふふ、大袈裟だけど、世界が広がった感じがしたんだ」
「世界が?」
「うん。初めて一人で登校してね、あれ、通学路ってこんなに広かったっけーとか、空ってこんなに遠かったんだーとか。あ、ここにこんなポスターあったんだって知ったの。いつもお姉ちゃんと花乃子ちゃんの間にいて、蒼菜ったら話に夢中だったから知らなかったんだよ」
 そういえばそうだ。自然とあの頃のことを思い出す。蒼菜はずっと喋っていて、花乃子が相槌を打つ。私は話を聞きながら、この妹を学校へ連れて行く。そんな任務に駆られていたように思う。
「それで、友達と歩くとまた通学路が違って見えたの。お姉ちゃんたちと歩いてた時は連れて行ってもらってるって感じだったんだけど、友達と歩くと、一緒に向かってる。意識の問題なんだけど、友達と歩くと何だか冒険してるように感じるんだって思ったの覚えてる。だから文字通り、世界が広がったんだよ」
 笑顔でそう言うと、白い歯がキラリと輝いた。この子は凄いな、と思った。だからそれを伝えてみることにし、一旦、彼女を離して改めて顔を覗き込む。
「蒼菜は前向きだね」
「えーそうかな?」
「そうだよ。蒼菜は、みんな、自分のことどうでもいいんだって言ってたけどそうじゃない。悪意を向けられても、それを受け入れて、前向きに取り組める力がある。みんなそんな蒼菜に当てられて、敵意とかそういう気持ちが萎んじゃうんだよ。……言わば、光属性」
「光属性!」
 大声で驚いてみせたあと、すぐに笑い声が弾けた。人差し指を突き出して力説してしまった私は何だか恥ずかしくなって、引っ込めることも出来ない指がふにゃりと曲がってしまう。