「作れるかな」
「作れるよ」
 力強く肯定されて自分で呟いた言葉が弱音だったと思い知る。望月くんの言葉は、背中を押してくれていた。大丈夫、そう胸に訴えかけてくる。
 だったら、と私も彼の手の上に自分の手を重ねた。
「だったら、望月くんもだよ。望月くんも現実でそういう人を、そういう場所をいっぱい作って。ここがなくなっても大丈夫なように」
 言いながら、胸が抉られる思いに駆られる。
 ここがなくなるなんて、嫌だ。けれど。
 彼の作った居場所にいるのは私じゃなくていい。その場所に、私じゃない誰かがいて、望月くんが笑えるならそれでいい。
 心からそう思える。
 なのに、頷いた望月くんを見て、私は、その思いと同時にこんなに苦しいなら感情なんかなくなって欲しいと願った。
 朝になると憂鬱になる。リビングに降りると、私を一瞥して、わざと無視をする母と、挨拶をしてくる父。今日初めて会う人間がこの二人だから憂鬱になってもおかしくないだろう。それから蒼菜が起きてくる。
 蒼菜が来ると、少し空気が和らぐ。母も笑顔を浮かべるが、チラチラと私を見てくる。
 私を思い出した母は、意識して私を見ないようにしていた。その目には怯えが混じり、いつ仕掛けてくるのかと警戒しているようだった。
 私は、もう母に何かするつもりはない。けれど一方的に被害者意識を持つその目に苛立ちが募ってしまう。
 だから、蒼菜がいる空間では私も緊張を解くことが出来た。