例えばこれを恋と言うならば、どうしてキスをしたいと思わないのだろう。
 いつものように夢の中、現れた教室で私と望月くんはそれぞれが教室内で座っている位置に席を着いていた。教室の外は出られない。出ようとしても近付けないのだ。
 彼の動く唇をボーッと見つめてしまう。
 花乃子が屋詰さんとお付き合いを始めたらしい。花乃子にとっては初彼氏な訳だけれど、屋詰さんは本当に手が早いらしく、花乃子も嫌だった訳じゃないと漏らしていたが。
「なんか、もっと、ロマンチックにキスするものだと思ってた……」
 どういうシチュエーションだったのかまでは聞かなかったけれど不満そうな顔をしていた。しかしその端々で嬉しい感情が滲み出していて、私は、と以前望月くんと抱き合った時のことを考えてみる。
 嬉しかった気持ちは確かにあったが、あれは会えたことによる喜びだったように思う。私は望月くんが好き。それって恋かな、と考えてみたけれどたどり着いた答えはそれ。
 キスしたいと思わない。抱き合ったのも会えたことによる喜び。じゃあこれは、何なのだろう。友達……よりも、もっと別の、なにか。何の好きに当たるのだろうか。
「星村? おーい」
 目の前で大きな手がひらひらと泳ぎ、我に返る。顔を上げると望月くんがいた。
 私は窓際の席。彼は真ん中の列の後ろらしく、そこにいたはず。
「なに?」
「いやなにって……。話しかけても返事ないし、ボーッとしてるからどうしたのかなって」
「ああ、別に。何の話だっけ?」
 全く、と零して前の席に腰掛け、私の席に肘をついて、だから、と前のめりに口を開いた。