私の非協力的な態度が腹立つのか睨まれてしまうが、私は鼻を鳴らしてテレビを見ている母の前に立った。もう画面は見えていないはずなのに、透けて見えるのかテレビから発せられる笑い声と合わせて笑っている。
「お母さん。お母さーん、おーい、お母さん。……ほら、この人が勝手に私を見ないようにしてるんだよ」
 全然聞こえていないらしい。嫌な笑みを浮かべてしまっている自覚はあった。苛立ちが徐々にふつふつと湧き上がってきている。
 そこでようやく気付いた。魔法だ。よくよく考えれば、この人の頭の中にも魔法が起きている。私を見えなくする魔法。実の娘を自分の都合で消す魔法。
 意地悪な気持ちが、芽生えた。母の手を掴んでやると反応を窺う。最初は感じてもいないようだったが、徐々に、緊張感が芽生え、掴んだ手が強ばっていくのを感じる。
「消せないよ、お母さん」
 にたりと、口角が歪む。ゆっくりと母が私を見上げ、目を見開いた。
 その瞬間、何かが割れた音が響いた。否、これは人の声だと気付く。手が振り払われると母は頭を抑え、金切り声で叫び続けた。慌てて父が彼女を抱き締める。大丈夫、大丈夫、と高い声の中に低い声が混じる。
 私は、動けなかった。
 自分で揺さぶっておきながら、私と母の間で止まっていた時間が動いたことを感じた。私を見た母の瞳が揺れ動き、忘却していたソレが瞳の中にじわりと蘇り、そしてはっきりと姿を現したのを見てしまった。
「お母さん……私を、思い出したよ」
 やっと絞り出した言葉に、父が驚いて私を一瞥すると、母に問いかけた。