奇しくも、私たちはお互いの可笑しくなった様子を聞いて安心したのだ。まるで双子の片割れを失ったような、身体の一部をなくしてしまったような、そんな気持ちだった。
 帰る時、花乃子に念を押されてしまった。
「夢の中のことだけに意識を囚われないで。歩咲は現実で生きてるんだからね」
 珍しくしつこく説かれた。記憶からそう簡単に消えないだろう。
 修学旅行は二泊三日、その三日目の夜、早く寝てしまって夢を見れるかどうか確かめたかったが、私は父と母とテーブルを挟んで座っていた。父に呼ばれ、反抗したが無駄に終わってしまったために。
 母もソファーに座ってテレビを見ていたのにわざわざ椅子に座らされたことに不満を覚えたようで父に抗議していた。しかし無視をして私に話しかけてくる。
「歩咲。学校は、どうだ?」
「はあ? そんな話するために呼び出したの? ……わざわざ、その人も呼んで」
 母をちらりと見たが私には目もくれない。抗議することを諦めた母は身体を捻ってテレビに視線を向けていた。
「なるほど、揺さぶり作戦だ」
 笑みが零れてしまう。無駄なことを。
「仮にお母さんが私のことを思い出したとして、メリットなんかないよ。私から吐かれた暴言を思い出して苦しむだけ。なら、忘れたままの方がいいでしょ」
「……お前は一生このままでいいのか。この先就職しても、結婚しても、子どもが出来ても、お母さんから喜ばれることはないんだぞ」
「私を勝手に忘れたのはその人でしょ? 思い出して欲しいなんてこれっぽっちも思ってない。そういう未来でいいと思ってる。なのに何でわざわざ協力しなきゃいけないの?」