「それで、星村の話って?」
「私の話はいいよ、そんなことより惚気聞かせてよ」
「そう? じゃあ……」
 彼の惚気話を聞きながら、私は自分で線を引いたことに気付いた。彼と私は住む世界が違う。
 彼の青春に、私はいない。
 私の生活に、彼はいない。
 翌日の学校ではさすがに気まずさを拭えなかった。玄関で会った時も、廊下ですれ違った時も、紬の視線は私に向いていたし、私もつい彼女を目で追ってしまう。
 時間が経つとイラついていたことが嘘のようになくなり、申し訳なさが残った。言ってはいけないことを言った。最低の言葉で彼女を傷付けた。もっと言い方があったはず。……けれど、私は紬と仲良くしていたいのだろうか。そう思うと謝れずにいた。
 下校時、たまたま花乃子と会い、一緒に帰路に着く。紬と花乃子と私は中学時代仲良かったグループに所属していたから自然とその話になった。
「紬ちゃんね、グループでも浮いてたよね」
「そうだっけ?」
 首を傾げると花乃子が頷いた。
「うん、あの時は似たような子もいたから、そんなに目立ってなかったけど。私も正直苦手だったな、だから高校も違うところ選んだんだし」
「え、そうなの?」
 花乃子にも苦手意識あるんだ。
「うん、何か……喜怒哀楽が激しいっていうか、はっちゃけたら凄いはっちゃける人だし、しつこいところもあったから。でも、ほら、紬ちゃんの親ってほとんど家に帰ってこないって言うし寂しいのかも」
 それは私も聞いたことがある。ただ、忘れていた。そういえばそうだった、と昨日見せた紬の暗い表情、陰りのある瞳を思い出す。自然と家でひとりぼっちの彼女の背中を思い浮かべてしまう。