「……お医者さんから薬、もらったんだけどね。朝の分、飲まなかったの……。飲まなくても平気だよねって思ったんだけど、やっぱり、だめだったなぁ」

 雑談をできるくらいには持ち直しているようだ。ただ、その内容に違和感を覚えた。
 飲めなかった、じゃなくて、飲まなかった……。

「それって、飲み忘れ、とかじゃなくて」
「うん。わざと」

 へへ、と笑ってこちらを向いてみせる。
 そんな顔をされても、どう反応をしたらいいのかわからない。

「薬なんかなくたって、私、元気だもんって思ったの……。そしたらこんなことになって。ごめんなさい。迷惑かけちゃったね」

 元気じゃないから薬が処方されたんだろう。変な意地を張ってないで、飲んだほうが楽なのに。
 薬を飲まないとあんなふうに倒れてしまう病気って、なんだろうか。
 ……貧血、とか?
 にしては今、彼女が飲んだ錠剤はやたらと数が多かったような……。

「……あ、こんなこと話してる場合じゃないか……。浅見くん、五時間目あるよね。私は午後から早退だからいいんだけど、浅見くん、早く授業戻らなきゃだよね」

 早退だったのか。じゃあやっぱり具合が悪くて……いや、それよりも。
 どうしても気になってしまった。〝浅見くん〟呼びが。

「授業は、どうでもいいんだけど。えっと……俺たち、同じクラス、だっけ」

 彼女の体調が快方に向かっているからと、つい余計なことを聞いてしまった。
 学校で初対面の人に名前を呼ばれるとしたら、クラスメイトか、先生か、占い師の素質を持った生徒くらいしか思いつかない。
 一年のころはクラスに彼女はいなかった。ただ、今のクラスに関してはまだ女子の顔を覚えていなくて、他クラスの人間だと断言する自信がない。
 すると彼女は、不思議そうな顔をして首を振った。

「え……違うよ。私、B組。浅見くんは、A組でしょ?」
「じゃあ、なんで俺の名前」
「あ。……あ!」

 質問の意図を察知したのか、彼女の目が泳ぐ。
 なんでそんなリアクションになるのかわからないけれど、彼女はしばらくの間視線を上へ下へと移動させると、最終的に俯いた。

「……えっと……。……友達の、友達の、友達が浅見くんのこと話してた、ような気がして。ほら、ほかのクラスの生徒のことだって、なんかのタイミングで名前知ること……あるよね?」

 あるよね? と同意を求められても、俺にはない。
 特に女子に関しては、一年をかけてようやくクラスメイトの顔と名前が一致するようなあり様だ。ほかのクラスの女子なんて、街ですれ違うサラリーマンと同じくらい遠い存在でしかない。

「そう……。そう、かも、ね」
「……ねぇ、浅見くん。もし、もうちょっとだけ授業遅刻してもいいなら……ちょっと聞きたいことがあるんだけど」

 急に彼女が真剣な眼差しでこちらを見つめてきた。
 俺は頷きつつも、微妙に顔を逸らして、視線がぶつからないようにしてしまう。

「さっき、屋上にいたよね?」

 ……あ。
 ん?