また、眠ってしまったようだった。
 小説を書き終えた疲れと、安堵と、未来への不安と期待が入り混じった眠りだった。
 夢を見ているのか、声が聞こえてくる。
 目をつむっているのに彩葉の姿が見える。
 眠っている俺の横に屈んで、顔を覗き込み、やさしく微笑んでいた。

 ……なぁ、彩葉。
 俺は、彩葉の想いに応えられたかな。
 ずっと俺ばかりが支えられてきたけれど、少しは、返せたのかな。
 たったの、三年間だった。
 だけど毎日、彩葉への想いを届けたつもりだ。
 最後に、幸せを、あげられたかな……。

 泣きそうになったけれど、瞼に力を入れて(こら)えた。彼女にはもう、涙も、不安も、見せたくはなかった。
 やがて、彼女が一歩離れた。
 笑顔を浮かべたまま、小さくつぶやく。

 ——またね(・・・)、陽斗くん。