その抵抗に戸惑いながらも、私は一層強く押し返そうと力を込めた。
 けれど戸は奏翔が強い力で押さえつけているらしく、運動神経がまるでない私の力では歯が立たなかった。彼の拒絶を感じながらもただ最上階に引き戸がミシミシと鳴る音だけが鳴り響く。
 なんでだろう。たかが挨拶を交わしただけのはずだった。何気ない1日の始まりでしかないその瞬間で、奏翔がまるで別人のように変わり、図書室に閉じこもってしまった。私が深く考えすぎているのかもしれないけれど、ただ声を小さくしてしまった挨拶以上に、きっと何か理由があるはずだ。さもなければ、授業を放棄してまで閉じこもるなんて、そんな極端な行動を取るはずがない。
 私の心の中で、不安が風船のように膨らんでいく一方だった。
 ついにチャイムが鳴り響くまで、その格闘は続いた。
 そして、同時にスカートのポケットに入れてあったスマホが短い通知音を発した。こんな時に何なのだろう、と慌ててスマホを取り出し、電源を入れる。すると、奏翔からのメッセージが来ていることを知らせる通知が表示されていた。
 引き戸の向こうにいるのだから、直接話しかけてくれればいいのにと思いつつ、トーク画面を開く。そこに並んでいたのは、私が想像もしなかった驚きの言葉だった。
【早く授業に行け。俺とはもう関わらない方がいい】
 不覚にも引き戸から手を離し、一歩、また一歩と後退った。
 心の中で何かが崩れたような感覚に襲われながら、改めてスマホの画面に目を凝らす。
 まるで幻覚のように思えたそのメッセージが、現実のものであることを確かめたくて、ガクガクと震える指で頬をつねってみた。その途端ヒリヒリとした痛みが走り、その痛みは、この事態が夢ではなく、確かな現実だと私に教えていた。
 どういうことだろうか。もう関わらない方がいいって。
 そもそも奏翔とは昨日、1週間だけではなくその先も付き合おうと約束したばかりだ。