「これ、当日のプレイリストな」
少し話してから未弦と弓彩が家についたとグループトークから抜けたタイミングで、奏翔が隣から紙を渡してきた。スマホのライトで照らすと、一番上に大きく【Sound】と書かれている。今回のテーマだ。その下には、オープニング曲から始まり、前のコンクールで演奏した曲や流行りのメドレー、三羽先輩と泉平くんの二重奏、未弦と弓彩のデュエット、そして私と奏翔が弾く予定の曲まで、アンコール用の曲も含めリストアップされている。全体で20曲もあるのが目を引いた。
「部員で分かれて演奏する曲、ほとんど楽采が作ったんだぜ」
奏翔は夜道を歩きながら、紙に並ぶ曲名を指差し、「これとこれ……」と自慢げに教えてくれる。その数は7曲。泉平くんが作曲家を目指すのは、こうした創作意欲を見れば一目瞭然だ。
実際、私と一緒に作曲している時も、私が焦っている間に泉平くんは好きな作曲家の話をしながら、次々と音符を並べていく姿を何度も見た。将来、彼は間違いなく有望な作曲家になるだろう。 「それから、今回のテーマは三羽先輩が決めたんだって。楓音が入部すること、最初から考えてたらしいよ。難聴の人が二人いるってことで、『Sound』に決めたんだ」
奏翔の言葉に驚く。確かに三羽先輩は、私がまだ見学すらしていなかった時から、まるで当然のように入部を勧めてきた。その時は少し戸惑ったが、今振り返ると、彼女の計画は最初から緻密だったのだろう。
「へー」
私はそう返事し、渡された紙をスカートのポケットにしまった。それからスマホで夜道を照らしながら歩いていると、奏翔がふいに私の手を握り、指を一本一本絡ませて恋人繋ぎにしてきた。距離が急に近づき、胸がドキドキと早鐘を打つ。心臓の鼓動が耳まで響き、明日への不安と緊張が一気に高まってきた。
「さっき、演奏する曲がたくさんあるって言ったけど……」
奏翔が言葉を詰まらせて、ちらりと私を見る。その目には少し迷いが見えたが、すぐに笑顔を作って続けた。
「俺、今回は楓音との二人だけで弾く曲にしか出演しないんだ。楽采とメッセージでそう決めた」
その言葉に一瞬戸惑うが、彼が今の状況を踏まえて決断したのだとすぐに理解できた。
でも……。
「本当に他の曲は弾かなくていいの?」
私は知っている。奏翔は音楽とピアノが心から好きだ。壁にぶつかった時も、彼は簡単にあきらめなかった。たとえ一時ピアノをやめていた時期があっても、泉平くんの「弾いてほしい」という一言がきっかけで、再び向き合い続けてきた。それが彼の強さであり、音楽への情熱を表している。
彼と一緒に演奏したいと願う人は多い。彼のピアノには人を引き込む力がある。奏翔と演奏することは、ただ音楽を奏でるだけでなく、彼の心に触れる特別な体験でもあるのだろう。
「ああ、いいんだ。今回はそれでいい。だから、楓音もそうしてくれ」
彼の声には、不安と期待が混じっていたが、その表情は真剣だ。彼は私の飛び入り参加や聴覚過敏のことも気にかけてくれているのだろう。彼の決断を尊重し、私はその真剣な眼差しに静かに頷いた。
少し話してから未弦と弓彩が家についたとグループトークから抜けたタイミングで、奏翔が隣から紙を渡してきた。スマホのライトで照らすと、一番上に大きく【Sound】と書かれている。今回のテーマだ。その下には、オープニング曲から始まり、前のコンクールで演奏した曲や流行りのメドレー、三羽先輩と泉平くんの二重奏、未弦と弓彩のデュエット、そして私と奏翔が弾く予定の曲まで、アンコール用の曲も含めリストアップされている。全体で20曲もあるのが目を引いた。
「部員で分かれて演奏する曲、ほとんど楽采が作ったんだぜ」
奏翔は夜道を歩きながら、紙に並ぶ曲名を指差し、「これとこれ……」と自慢げに教えてくれる。その数は7曲。泉平くんが作曲家を目指すのは、こうした創作意欲を見れば一目瞭然だ。
実際、私と一緒に作曲している時も、私が焦っている間に泉平くんは好きな作曲家の話をしながら、次々と音符を並べていく姿を何度も見た。将来、彼は間違いなく有望な作曲家になるだろう。 「それから、今回のテーマは三羽先輩が決めたんだって。楓音が入部すること、最初から考えてたらしいよ。難聴の人が二人いるってことで、『Sound』に決めたんだ」
奏翔の言葉に驚く。確かに三羽先輩は、私がまだ見学すらしていなかった時から、まるで当然のように入部を勧めてきた。その時は少し戸惑ったが、今振り返ると、彼女の計画は最初から緻密だったのだろう。
「へー」
私はそう返事し、渡された紙をスカートのポケットにしまった。それからスマホで夜道を照らしながら歩いていると、奏翔がふいに私の手を握り、指を一本一本絡ませて恋人繋ぎにしてきた。距離が急に近づき、胸がドキドキと早鐘を打つ。心臓の鼓動が耳まで響き、明日への不安と緊張が一気に高まってきた。
「さっき、演奏する曲がたくさんあるって言ったけど……」
奏翔が言葉を詰まらせて、ちらりと私を見る。その目には少し迷いが見えたが、すぐに笑顔を作って続けた。
「俺、今回は楓音との二人だけで弾く曲にしか出演しないんだ。楽采とメッセージでそう決めた」
その言葉に一瞬戸惑うが、彼が今の状況を踏まえて決断したのだとすぐに理解できた。
でも……。
「本当に他の曲は弾かなくていいの?」
私は知っている。奏翔は音楽とピアノが心から好きだ。壁にぶつかった時も、彼は簡単にあきらめなかった。たとえ一時ピアノをやめていた時期があっても、泉平くんの「弾いてほしい」という一言がきっかけで、再び向き合い続けてきた。それが彼の強さであり、音楽への情熱を表している。
彼と一緒に演奏したいと願う人は多い。彼のピアノには人を引き込む力がある。奏翔と演奏することは、ただ音楽を奏でるだけでなく、彼の心に触れる特別な体験でもあるのだろう。
「ああ、いいんだ。今回はそれでいい。だから、楓音もそうしてくれ」
彼の声には、不安と期待が混じっていたが、その表情は真剣だ。彼は私の飛び入り参加や聴覚過敏のことも気にかけてくれているのだろう。彼の決断を尊重し、私はその真剣な眼差しに静かに頷いた。