「茂雅さん、今の話本当なの?」
「その聞かせたい人って誰なんだ?」
 未弦の両親が、まるで警察か取り調べ官のように詰め寄るが、父さんの制止も虚しく、時すでに遅し。この場にいる全員が、その一部始終を聞いてしまったことは明らかだ。
 諦めたかのように脱力し、ため息混じりの笑いをこぼしながら、父さんはゆっくりと口を開いた。
「仕方ないな。母さんのことだからな。母さんも父さんも未弦たちのバイオリンの演奏が大好きだった。特に母さんはバイオリン教室の講師だったから、教え子たちの演奏を聴けば目を覚ますかもしれないと思っていたんだ。だから、毎回変装してこっそり録音し、それを母さんに聞かせていた。それに、家族でコンクールに足を運び、いつかは楓音の演奏も舞台で聴く。それが父さんの願いだったんだ」
 そのいきなりの告白に衝撃を覚える。誰もが時間が止まったかのように言葉を失い、ただ父さんだけが真剣な瞳をしていた。それが嘘ではないというかのように。
『自分がやったことの後始末はちゃんと最後まで自分でしろ。何年かかっても、どんなに手を尽くしてもだ。それぐらい小学生でもわかるだろ?父さんは悪くないからな。悪いのはお前だけだぞ。お前だけでなんとかしろ』
 母さんが植物状態になって間もない時、父さんが私に怒鳴った言葉がふと脳裏をよぎる。あんなことを言っておきながら、母さんが目を覚ますことを願い、不審者っぽく変装してまで行動を起こしていたとは。それに加え、私の演奏を聞くのが夢だったとは。驚きのあまり、耳を疑うしかなかった。それはみんなも同様で辺りには沈黙が漂う。 
 確かにコンクールや定期演奏会が行われる度、父さんは子どものようにはしゃいで、未弦と弓彩と私と母さんの4人で記念写真を撮ろうと、まるで親バカのように誘ってきていた。私はその度に部外者のように気まずく感じていたが、未弦と弓彩の演奏が大好きなことは明らかだった。