頭の中で、点と点が次々に線で結ばれるように、五線譜には自然と音符が並んでいった。それと同時に、奏翔が私にしてくれたことが、まるで旋律のように心の中で響き渡る。
 実際に曲を作ったのは泉平くんと私だけれど、奏翔はクラシックのソナタやカノン、そして泉平くんが作った曲を即興でメドレーにし、さらにアレンジを加えて私の心に届けてくれた。頭の痛みが和らぐようで、泣いている私に寄り添ってくれるような、穏やかで繊細なメロディー。耳が聴こえないとは到底思えないほど心地よいその音色は、今も鮮明に記憶に残っている。
 彼が私に隠していた嘘。  
 抱えていた真実。        
 たとえ一度は見失っても、私を見捨てなかったその姿。  
 私の背中を強く押してくれた言葉。  
 揺るぎない眼差し。       
 優しく叩いてくれた背中。  
 そして涙を堪えながらも、強く抱きしめてくれたこと。   
 儚くも優しいキス。
 暗闇の中で差し込んだ一筋の光。それは、私にも、奏翔にも同じ意味を持っていた。
「好きだ……高くて澄んだかわいい声も……たれ気味な目も。心の底から笑う顔も。弓彩さんが赤ちゃんだった頃にあやすのがうまかったとか、祖母のために動く姿も……未弦先輩が写真を交えながら語ってくれた、そんな大人っぽいところも全部好きなんだ」
 しばらくして、奏翔は私の体から少し離れ、無理に笑みを浮かべながらも、真剣に告白してきた。その言葉に、胸がぎゅっと締め付けられる。しかし、彼の顔はすぐに辛そうに歪み、下を向いて嗚咽混じりに続けた。
「でも……助けるべきじゃなかった。近づかない方が、よかったんだ。遠くから見ているだけなら、ずっと守れたのに……俺の耳がちゃんと聴こえていれば、俺がいなければ、楓音はあんな条件を飲まされることも、耳を壊すこともなかった。楽采もあんな風に感情を閉ざさなかったし、彼の母親だって、仕事がうまくいかないこともそのせいで楽采に当たってしまうこともなかった……。全部、俺がいたせいだ。だから、これ以上迷惑をかけるわけにはいかないんだ。俺は……隣にいる資格なんてないんだよ」
「そんなこと……言わないで……」
 奏翔の声は今にも消え入りそうだった。その声を聞いて、思わず彼の手を両手で包み込んだ。
 しかし、彼の耳には私の声までは届かない。彼が顔を上げて私の口元を読んでくれない限り、言葉は彼に伝わらない。その無力さが、さらに苦しみを募らせた。