どれくらいの時間が経ったのだろう。深い眠りから目を覚まし、まぶたを開けると、思わずまばたきしてしまった。
「おはよう」
目の前に奏翔の顔がドアップにあり、優しく微笑みを浮かべていたからだ。その表情に、少しほっとしたものの、突然の状況に驚いて「わっ!」と声を上げながら飛び起きた。初対面に近い彼に膝枕されていたなんて、信じられなかった。現実がつかめず、動揺と恥ずかしさが一気に押し寄せてきた。まるで夢のような感覚で、何が起こっているのか、どうしてこうなったのか、全く飲み込めなかった。
「弁当を食べようとしたら、楓音が俺の方に倒れてきたんだ。保健室に連れて行こうとしたけど、そのまま膝に乗っちゃって……動けなくなったんだよ」
奏翔は少し照れたように頭をかきながら笑った。それから、私の不安そうな顔を見て「もちろん手は出してないから、安心して」と慌てて付け加えた。
それでも、私の頬の熱は引かなかった。
「それより、目の下のクマがすごいけど、大丈夫?」
いたたまれず立ち上がろうとした瞬間、奏翔が心配そうに私の顔を覗き込んできた。その表情に、寝不足のことを思い出して、胸が一瞬痛んだ。
ここ3年、テスト範囲が終わっても不安で眠れず、勉強を続けたり、途中で寝落ちしたりしてきた。それが積もり積もって、体調を崩しやすくなり、聴覚過敏も良くならない。こんな風に初対面の彼に迷惑をかけてしまったなんて、情けなかった。
「ごめん、大したことないよ」
そう言って真実は明かせなかった。理由を聞かれるのが怖かったから。弁当を手に取ると、逃げるように図書室の引き戸へ向かって歩き出した。壁にかけてある時計をちらりと見ると、午後の授業が始まってから1時間も経っていた。
「あ、待って」
引き戸を開けようとした瞬間、腕を掴まれた。振り返ると、奏翔が立っていた。
「理由は無理に聞かない。でも、放課後またここに来てほしい。話がしたいんだ」
そう言って彼は軽く手を振り、廊下を走り去った。その様子を呆然と見送りながら、私は心の中で何度もその言葉を繰り返していた。
「おはよう」
目の前に奏翔の顔がドアップにあり、優しく微笑みを浮かべていたからだ。その表情に、少しほっとしたものの、突然の状況に驚いて「わっ!」と声を上げながら飛び起きた。初対面に近い彼に膝枕されていたなんて、信じられなかった。現実がつかめず、動揺と恥ずかしさが一気に押し寄せてきた。まるで夢のような感覚で、何が起こっているのか、どうしてこうなったのか、全く飲み込めなかった。
「弁当を食べようとしたら、楓音が俺の方に倒れてきたんだ。保健室に連れて行こうとしたけど、そのまま膝に乗っちゃって……動けなくなったんだよ」
奏翔は少し照れたように頭をかきながら笑った。それから、私の不安そうな顔を見て「もちろん手は出してないから、安心して」と慌てて付け加えた。
それでも、私の頬の熱は引かなかった。
「それより、目の下のクマがすごいけど、大丈夫?」
いたたまれず立ち上がろうとした瞬間、奏翔が心配そうに私の顔を覗き込んできた。その表情に、寝不足のことを思い出して、胸が一瞬痛んだ。
ここ3年、テスト範囲が終わっても不安で眠れず、勉強を続けたり、途中で寝落ちしたりしてきた。それが積もり積もって、体調を崩しやすくなり、聴覚過敏も良くならない。こんな風に初対面の彼に迷惑をかけてしまったなんて、情けなかった。
「ごめん、大したことないよ」
そう言って真実は明かせなかった。理由を聞かれるのが怖かったから。弁当を手に取ると、逃げるように図書室の引き戸へ向かって歩き出した。壁にかけてある時計をちらりと見ると、午後の授業が始まってから1時間も経っていた。
「あ、待って」
引き戸を開けようとした瞬間、腕を掴まれた。振り返ると、奏翔が立っていた。
「理由は無理に聞かない。でも、放課後またここに来てほしい。話がしたいんだ」
そう言って彼は軽く手を振り、廊下を走り去った。その様子を呆然と見送りながら、私は心の中で何度もその言葉を繰り返していた。