なのに私はあの事件以来、未弦達のバイオリンを聴くことすらやめていた。私はもう、人殺しだから誰にも関わっちゃいけないんだって心を閉ざしていた。 
「……未弦」
「うちはね、とても寂しかったんだよ……辛かったんだよ……怖かったんだよ!楓音がうちを避けることが多くなったり防音イヤーマフをつけるようになった時、いきなりものすごく高くて、分厚い壁がうちの前に立ちはだかったみたいに……うちにはたくさんの友達がいる。でも、その友達やクラスメイトに避けられたり嫌われたりするより、ずっと……寂しかったんだよ、辛かったんだよ……怖かったんだよ!」
「えっ……」
 私はその言葉に面食らった。未弦はどこまでもまっすぐな眼差しで私を見ている。その言葉が嘘ではないのは言うまでもない。
「自分が不甲斐なくていっそ、この世界から消えたい、死にたいって何度も思ったし何度も泣き暮れてたの。この4年は特に!」
 未弦は語気を強めて訴えてきた。
"もう中学生になったのに本当の笑顔を見せてくれることは少ない。小さい頃はもっと無邪気だったはず。たぶん。それなのに人見知りで会話も少ないし、母さんが何か嫌な発言をしてしまったのかしら"
"楓音がなかなか本音を言ってくれないの。わかってる。なんでなの?問いかけたいけれど、母さんもよく父さんに本音がなかなか言えないからそこが遺伝してしまったのかしら。ごめんね、母さんのせいで。いっそ死んでしまいたい消えたいってこれまでもこれからもあと何回思ったらいいのかしら"
 ふと母さんの日記の大半の内容が次々と脳裏をよぎっていく。
 それは未弦が口にしていた本音と酷似(こくじ)していた。
 私は私のせいで未弦を避けていたというのに。それを自分のせいだと勘違いしていたなんて今まで一度として気づかなかった。気づこうとしてこなかった。未弦はどうしてそんなにも優しいのだろうと疑問が湧いた。