「熱中症に遭難!?今5月中旬よ。そんなに暑くも寒くもないじゃない。楓音のバカ!」
 私が手当たり次第可能性を話すと未弦は頬をぷくうと膨らませて言ってきた。隣の奏翔は「でも迷子ぐらいはあるだろ?」と助け舟を出してくれる。
「弓彩は迷子になったことないよ。今まで一度も」
 未弦にはそれすら通用しないのかまたもや言い返してくる。
「それはママとパパと未弦が弓彩に甘いからよ」
 そこを未弦の母さんがつけたすように言った。きっと引っ付き虫のように片時も離されることなく、大切に育てられているんだろう。私も私の母さんも以前はその手伝いをしていたし、そのことは痛いほどにわかっている。
「うちはね、弓彩のお姉ちゃんだからしっかりしないとって気を張ってたの。でも弓彩が楓音と話したいっていつもせがんできてダメ!って止めてたの。そして裏でうちが悪いんだって責めてた!昨日の夜だってそう。そしたら家出する!って飛び出していったのよ!」
 わかる?と未弦は私に近づいてきて揺るぎのない瞳で口にした。その距離はすごく近くて目を見開いた。まるで私が弓彩の家出の引き金となってしまったみたいだった。
「なんで……なんで未弦が悪いの」
 あまりのショックにカシャンと箸が皿の上に落ちる。悲しくなってきて私はきつく目を閉じ、涙がでるのをこらえるようにジーンズの裾を握りしめた。隣にいた奏翔がそれに気づき、箸を置いて私の手の上に自分の手を重ねてくれる。そばにいるよって言ってくれているみたいで、その温かさが心地よかった。
 悪いのは私だ。未弦を避けた私が悪かったんだ。
「へ……うちが悪いんだって。だって、うちが楓音に何か気に障ることしたんでしょ?そういう行動をしたんでしょ?」
 それなのに未弦は箸を置き、泣きそうな顔をしながら自分のことを責めている。私が自分の気持ちをうまく言えないから、テキトーな言葉ばっか並べたり避けたりしているからこんなことになったんだ。