《もしよかったらさ、俺隣にいようか?》
「へ?」
 けれどいきなりの提案に心がすっと軽くなった気がした。
「い、いいの?」
《うん、隣にいる》
「……ありがとう」
 奏翔の優しい口調に思わず涙が零れる。
 自分の秘密を知ってくれている。
 その事実はこれ以上ないほど心強い味方といっていいぐらいだ。
 私はそれから電話をきり、未弦と未弦の家族を呼んだ。すると彼らにも話したいことがあるという。
 すぐに中学校の冬用の運動着という名の寝間着から部屋着にもちょっとしたお出かけにも使える灰色のティシャツと小紫色のジーンズに着替えた。それから朝食を作りながら4人を待った。
 私は、父さんと二人暮らしをしているため、それなりに料理はできる。外食ができないので、この4年間で本屋で料理の本を買い、必死に独学で習得してきた。しかし、その割には簡単なものしか作れない。揚げ物など手間のかかる料理は、ほぼ毎回失敗してしまう。どうやら、私は料理に向いていないらしい。
 ちなみに両親からはほとんどレシピを教えてもらっていない。母さんからはホットケーキとお味噌汁ぐらいしか教わってないし、父さんは元々料理スキルがほとんどなくて、その上教える気すらもなく、私もその父さんから習おうとは少しも思わなかったから。
 パンをきつね色にトーストし、目玉焼きを焼く。その合間にポテトサラダをつくり、プチトマトと一緒に皿へ盛り付けた。そして私は昨日の父さんが作ったカップラーメンを食べることにする。父さんはカップラーメンの会社で働いていて、毎日案を出し合いながら新商品を作っている。今日も日曜日だというのに朝早くから既に出勤しているのだ。
 しばらくして唐突にインターホンが鳴り、顔を出す。そこにはくまができた瞳で泣き腫らした痕がある未弦とその両親がいた。その隣で奏翔は唖然としている。腕も足も服も全身泥だらけなのだから当たり前だ。ただごとではないのを一目で察する。
「どうしたんですか?」
 私は躊躇しながらも問いかける。
「弓彩が……」
 未弦は泣き崩れながら妹の名を口にした。それから私に倒れるように飛びついてくる。
「弓彩がどうしたの?」
 私はその背中を昨日、奏翔が泣きながら優しく擦ってくれた時みたいに擦ってみる。すると未弦は小さな子どもみたいに呻き声を上げながら口にした。