「連絡先交換しよ。校外でも会うことになるかもしれないから」
 弁当箱を開けていると、奏翔が制服のポケットからスマホを取り出しながら言った。私も慌ててスマホを取り出すが、連絡先に登録されているのは父さんと未弦だけ。勉強ばかりしていて、どうやって追加するのかすらわからない。     
 戸惑っていると、奏翔が「貸して」と言い、手際よく操作してスマホを返してくれた。画面には「よろしく」と書かれた音符のスタンプが送られている。それに比べて、私は初期スタンプしか持っておらず、文字で返すしかなかった。
「え、スマホ普段使わない系?俺なんかしょっちゅう触りながら寝落ちしてるのに」   
 あまりのテンパり様に、奏翔はクスリと笑った。トークでやり取りすることになるだろうし、早く使い方に慣れなければ。
 それにしても、校外で会うって……デートってこと?一瞬そんな妄想が頭をよぎった。だけど、これは一週間だけの関係だ。そんなことが起こるわけがない。それに、デートなんて地味な私には無縁のはずなのに、想像するだけで心臓がドキドキしてしまう。
 そうソワソワしていると、無意識に奏翔の弁当に目が向いてしまった。そして、思わず驚いて声を上げた。
「キャ、キャラ弁!?」  
 奏翔の弁当には、薄く細く切られた卵焼きで五線譜が描かれており、その上に海苔やチーズで音符が描かれていた。それを見て、小学生の頃、おばあちゃんが作ってくれた弁当の記憶がよみがえり、胸がきゅっと締めつけられた。あの頃は、毎日楽しくて幸せだったな。
「これ、楽采と食べると絶対からかわれるんだよ。苦笑いでやり過ごしてるけど、母さん、手こりすぎなんだよな」    
 奏翔は少し不満げに口をすぼめた。確かに、高校生にもなってキャラ弁は少し恥ずかしいかもしれないけど、私にはどこかほっこりする感じがした。
「へぇ、そうなんだ」   
 そう返しながらも自分の弁当に目を移す。とはいえ父さんの手抜き弁当だ。昨日の夕食の残りや冷凍食品ばかりが詰め込まれていて、正直、味気ない。食べようとするが、喉が詰まっているようで食欲がわかない。無理に口に運んでも、気分が悪くなり、視界がぼんやりとしてきた。その瞬間、心臓が一瞬高鳴り、次の瞬間、意識が途切れていった。