「実際に殺したのはトラックじゃん。それにもし楓音があの時、母さんの足首を蹴っていなかったとしても、俺は事故は避けられなかったと思う。だってトラックは飲酒運転で暴走してたんだろう?なら誰が犠牲になってもおかしくなかったんだよ。それが偶然、楓音の母さんだったってだけだ。楓音が隠蔽に協力したからって、そんなに全部の責任を背負わなくていいんだ。毎日声をかけるとか、そばにいるとか、そんなことで充分じゃないか?」
「へ……それだけでいいの?」
 私は思わず聞き返した。それであの父さんが許してくれるとはとても思えない。母さんだってせっかく授かった弟を自分の娘に殺されたんだからきっと怒るだろう。たとえ直接キズを入れたのが飲酒運転のドライバーだったとしても。最悪捨てられる可能性だってある。
「いいんだ。だってちゃんとその罪と向き合えてることに変わりはないだろ」
 奏翔は当然だと言わんばかりに断言してきた。確かに言われてみればそうである。
「でも……」
「それが隠蔽のために親と交わした条件だからって看護師とか医者とか介護婦とか無理に目指さなくたっていい。学年トップなんてとり続けなくてもいいんだ。楓音はそれが本当にやりたいことなら別だけどな」
 奏翔はそう言ってプチトマトを口に入れた。それを咀嚼してからまた口を開く。
「このこと、未弦先輩は知ってんのか?」
 その問いかけに私の胸はビクリと跳ねた。核心をつかれたことで、動揺が走る。もちろん、未弦には何も話していない。