「奏翔も食べよう?すっごくおいしいよ、これ」 
「ありがとう。今度はちゃんと行こう、見晴らしのいい丘。約束な」
 奏翔はもう一つの箸を取りながら言う。それに私が頷くと花開くような笑みを浮かべた。
「うわ、濃くない?砂糖と塩、ひとさじ入れすぎた」
 卵焼きを口にしながら奏翔は苦笑した。
「でも、おいしいよ」
「ほんと?」
「うん」
「ありがとう」
 きっと彼はすごく早起きしてこれを作ってくれていたのであろう。こんな私なんかのために。申し訳ない気持ちもあるけれど、とてつもなく嬉しい。奏翔には私の心のすべてさえ読まれている気がする。
「なぁ」
「ん?」
 奏翔は鶏の唐揚げを一口頬張り、こちらに話しかけてきた。外側はカリッとした食感が心地よく、中はジューシーで柔らかく、噛むたびに旨味が広がっている。私もそれをひとくちかじりながらも首を傾げた。
「さっきの話聞いて思ったんだけどさ」
「うん」
「楓音、人殺しじゃなくね?」
「へ……ケホケホッ!」  
 私はその言葉に気が動転した。声が上擦り、口の中の唐揚げが変なところに入ってしまう。
「あ、ごめん。まずかったかな」
 奏翔が一端を箸を置き、咳き込む私の肩を優しく擦ってきた。その眉は八の字に下げられ不安そうにしている。
「ち、違う違う。つまらせただけだから。おいしいよ」
 咳が止まり気を取り直しながら私は弁明した。すると奏翔は安堵したように私の背中を擦るのを止め「よかった」と柔らかい笑みを浮かべた。