その不安が膨らみ、やがてチャイムが鳴り響いた。
 その瞬間、スカートのポケットからスマホの通知音が鳴った。こんな時に何だろうと苛立ちながら確認すると、奏翔からのメッセージだった。
【早く授業に行け。俺とはもう関わらない方がいい】
 思わず扉から手を離し、後退った。驚きと動揺で体が震え、画面に表示された言葉の意味を何度も確認した。頬をつねると痛みが走り、これが現実だと実感した。
 どういうことだろう。つい先日、奏翔とはこれからも一緒にいると約束したばかりだった。それなのに、わけもわからず突き放され、足がすくんで体が動かなくなった。震える手でメッセージを打ち、送信する。
【どういうこと?】
 すぐに返ってきた彼の言葉は冷たかった。
【付き合ってた話は始めからなかったことにしてくれ。忘れてくれ。俺はもう楓音の隣にはいない方がいい。悪い】
 その瞬間、心が凍りついたように私は動けなくなり、引き戸の前で立ち尽くした。まるで世界が崩れ落ちるように感じた。
「忘れてって……今更、なんのつもりなの?ねぇ、答えてよ!」
 嗚咽がこみ上げ、涙があふれそうになった。力任せに引き戸を何度も叩いた。木が軋む音だけが虚しく返ってくる。奏翔の声は、どれだけ叩いても聞こえてこない。焦燥感と怒りが胸の中で膨れ上がり、それをどうすることもできずに叩き続けた。しかし、彼の無反応に対する無力感が、私をさらに追い詰めるだけだった。
 その時、再びスマホが鳴った。叩く手を止め、ポケットから取り出したスマホを震える指で開く。そこにはまた奏翔からのメッセージが表示されていた。
【悪い。ひとりにしてくれないか。早く教室へ行ってくれ】
 その言葉が胸に突き刺さり、理解できないまま心が引き裂かれるように感じた。拒絶の痛みは想像以上に深く、どうしようもなくつらかった。逃げ出したい衝動に駆られたが、今日から私は教室ではなく図書室が指定された場所だった。教室に行っても追い返されるだけだろう。
 私はまるで厄介者として扱われ、誰もが私を遠ざけようとしているのではないかという疑念が頭をよぎった。その思いが胸を締めつけ、行き場を失った私は図書室の引き戸にもたれかかり、力尽きてその場に座り込んでしまった。
 冷たい床が背中に押しつけられるように感じられたが、それでも立ち上がることができなかった。震える手で頭を抱え、膝に顔を埋める。まるでこの世界からひとりだけ切り離されたような孤独感が、全身を包み込んだ。
 そしてその瞬間、私の世界に一筋の光が差していたはずの希望が、再び暗闇に消えていくのを感じた。