寝不足で体が重く、泥のように眠っていたが、スマホのアラームで無理やり起こされた。6時前に未弦と会い、休みを取った父の車で学校へ向かう。目的は普通クラスへの移動を直談判することだったが、担任の藤井先生はすぐに了承してくれた。私の体調と聴覚過敏を気遣ってくれたのだろう。症状が治まるまで、図書室登校が認められ、未弦とは同じクラスに移り、戻ったときは隣の席になることが決まった。未弦は毎日授業ノートを届けてくれると言い、昼休みにも図書室で一緒に昼食をとろうと提案してくれた。
藤井先生との面談が終わり、私は図書室へ向かっていた。父とは1階で、未弦とは2階で別れ、3階に差し掛かると、始業10分前のざわめきが廊下に広がっていた。後ろからも階段を上がる足音が聞こえてくる。
「おはよ、楓音」
ふと背後から声をかけられ振り返ると、奏翔が立っていた。夏服の半袖シャツに小紫色のネクタイ、黒いズボンという爽やかな姿で、今日から夏服への移行期間だということを思い出した。外では梅雨の小雨が静かに降っている。学ランから少し変わっただけの奏翔の着こなしが、どこか爽やかで、赤茶色の髪と整った顔立ちが少しチャラく見えたが、それでもイケメンらしい雰囲気に言葉を失った。
「……お、おはよう」
しばらく間をおいてようやく絞り出した声は驚くほど小さく、奏翔と学校で初めて挨拶を交わす状況に妙に緊張してしまった。頼りない自分の声に気づき、さらに恥ずかしさが募る。
「……」
そんな私に対し、奏翔はなぜかショックを受けたかのように、急に項垂れて階段を駆け足で上がっていった。向かう先は教室ではなく、最上階。私は不審に思い、無意識にその背中を追いかけた。
「待ってよ!奏翔!」
焦って叫んだが、奏翔はまるで聞こえないかのように遠ざかっていった。階段に足音が反響し、扉がバン!と閉まる音が響いた。その音に思わずイヤーカップに手を当て、心臓が高鳴り、息が苦しくなったが、止めることはできなかった。
奏翔は確実に図書室にいる。引き戸を開けようとしたが、扉はびくともしなかった。彼が向こう側で押さえているのだろう。戸惑いながらも、私はさらに強く押し返そうとした。しかし、奏翔の力は強く、私の力では扉はびくともしなかった。引き戸がミシミシと鳴り響く中、彼の拒絶を感じ、胸が苦しくなった。たかが挨拶をしただけなのに、奏翔が別人のように変わった理由がわからなかった。
藤井先生との面談が終わり、私は図書室へ向かっていた。父とは1階で、未弦とは2階で別れ、3階に差し掛かると、始業10分前のざわめきが廊下に広がっていた。後ろからも階段を上がる足音が聞こえてくる。
「おはよ、楓音」
ふと背後から声をかけられ振り返ると、奏翔が立っていた。夏服の半袖シャツに小紫色のネクタイ、黒いズボンという爽やかな姿で、今日から夏服への移行期間だということを思い出した。外では梅雨の小雨が静かに降っている。学ランから少し変わっただけの奏翔の着こなしが、どこか爽やかで、赤茶色の髪と整った顔立ちが少しチャラく見えたが、それでもイケメンらしい雰囲気に言葉を失った。
「……お、おはよう」
しばらく間をおいてようやく絞り出した声は驚くほど小さく、奏翔と学校で初めて挨拶を交わす状況に妙に緊張してしまった。頼りない自分の声に気づき、さらに恥ずかしさが募る。
「……」
そんな私に対し、奏翔はなぜかショックを受けたかのように、急に項垂れて階段を駆け足で上がっていった。向かう先は教室ではなく、最上階。私は不審に思い、無意識にその背中を追いかけた。
「待ってよ!奏翔!」
焦って叫んだが、奏翔はまるで聞こえないかのように遠ざかっていった。階段に足音が反響し、扉がバン!と閉まる音が響いた。その音に思わずイヤーカップに手を当て、心臓が高鳴り、息が苦しくなったが、止めることはできなかった。
奏翔は確実に図書室にいる。引き戸を開けようとしたが、扉はびくともしなかった。彼が向こう側で押さえているのだろう。戸惑いながらも、私はさらに強く押し返そうとした。しかし、奏翔の力は強く、私の力では扉はびくともしなかった。引き戸がミシミシと鳴り響く中、彼の拒絶を感じ、胸が苦しくなった。たかが挨拶をしただけなのに、奏翔が別人のように変わった理由がわからなかった。