食べる、と私は言った。奏翔は「無理しなくていいよ。もう4時だし。夜ご飯食べれなくなっちゃう」と首を横に振る。
「いいよ。だって食べたいだもん」
 ついてあった箸を取りながら私は呟いた。奏翔は「うん、食べて」と優しい笑みを浮かべる。
 きつね色のだし巻き卵にプチトマト、鶏の唐揚げにポテトサラダに主役の白ご飯。
「親子そろってキャラ弁なんだね。しかもこれ……私じゃん」
 私はクスリと笑う。ご飯の上にはノリやハムでとても丁寧に私の顔が描かれていた。大人っぽくもかわいくて、自分ではダサすぎると思っていた顔。それはとてもかわいく描かれていた。奏翔にはこう見えてるのか。それとも彼なりの気遣いなのか、それはわからない。
 あまりにも華やかで食べるのもかわいそうと思いながらも、ひとくち口にする。
「……おいしい」
 遅い時間のはずなのに海苔は採りたてのように独特な風味を持っている。わずかに塩気があり、ほんのりとした甘さと旨味と香ばしさがふっくらとした白米とよく合っている。
 ハムもしっとりとした食感とともに、ほどよい塩味が口の中に広がり柔らかく、脂の甘みが強調されている。とてもまろやかで父さんの手抜き弁当よりも遥かにするっと喉を通りやすかった。
 だし巻き卵は旨味が強く、しっとりとした口当たりがある。味付けは間違えて濃くしてしまったのか、甘みと塩味も際立っていた。