「頭を上げて、楓音の父さん」
その瞬間、未弦がにっこりと笑顔を浮かべて、優しく声をかけた。父さんは驚いたように「へっ…」と小さな声を漏らしながらも、ゆっくりと頭を上げた。
「楓音の演奏が聴けるなら、楽器は何でもいいんだよね?」
未弦は手を差し出しながら、父さんに問いかけた。
「ああ、バイオリンじゃなくても構わない。聴けるなら…」
父さんは未弦の手を取らず、自分で立ち上がりながら答えた。
「じゃあ、楓音。普通クラスに移って耳が治ったら、うちらと一緒にコンクールとか出ようよ!前から楓音と演奏したいと思ってたんだよねー」
未弦は明るく私に歩み寄り、優しく手を取って、その黒く澄んだ瞳を輝かせながら言った。声の中には、これからのことへの期待が満ちていた。弓彩も「弓彩もー!」と嬉しそうに手を挙げて駆け寄ってきた。
「へっ、でも…」
急な誘いに戸惑い、言葉がうまく出てこなかった。一緒に演奏なんて、私はピアノで奏翔とカノンのサビを弾いたことがあるだけだ。他の楽器なんて、リコーダーや鍵盤ハーモニカぐらいしか触ったことがない。そんな私が未弦たちと同じ舞台に立つなんて、どんな楽器であれ無理だと思った。
「大丈夫。楓音にぴったりな楽器、見つけてあるから。練習もサポートするし、藤井先生もいるから安心して!」
未弦は優しく私を勇気づけるように言い、弓彩も続けて「そうそう。フルートっていう楽器でね、小鳥のさえずりみたいな音が出るんだよー。ちょっと習得は難しいかもしれないけれど、弓彩もいるから大丈夫」と声をかけてくれた。
でも、フルートと言われても、その楽器の姿が浮かばなかった。これまで耳にしたこともなかったからだ。
「いいな。俺も楓音と演奏したい。実は俺も楓音に合う楽器を考えていたんだ」
すると、隣に座っていた奏翔がスマホを取り出し、意気揚々とフルートの画像を見せながら言った。銀色の細長い横笛で、一見リコーダーの横笛バージョンのように見える。単純にリコーダーと同じように吹けばいいのだろうと思い、私は頷いた。しかし、その楽器があんなに難しいものだとは、この時の私はまだ知らなかった。
午後5時を過ぎ、一緒に夕食を楽しんだ後、未弦の家族と奏翔に「今日はありがとう。またね」と手を振って別れた。体は疲れていたけれど、心はすっきりと軽かった。
その時、私は全く思いもしなかった。奏翔との関係に、突如として高い壁が立ちはだかろうとしていることなんて。こんな時、私はそんなことを考える余裕すらなかったのだ。
その瞬間、未弦がにっこりと笑顔を浮かべて、優しく声をかけた。父さんは驚いたように「へっ…」と小さな声を漏らしながらも、ゆっくりと頭を上げた。
「楓音の演奏が聴けるなら、楽器は何でもいいんだよね?」
未弦は手を差し出しながら、父さんに問いかけた。
「ああ、バイオリンじゃなくても構わない。聴けるなら…」
父さんは未弦の手を取らず、自分で立ち上がりながら答えた。
「じゃあ、楓音。普通クラスに移って耳が治ったら、うちらと一緒にコンクールとか出ようよ!前から楓音と演奏したいと思ってたんだよねー」
未弦は明るく私に歩み寄り、優しく手を取って、その黒く澄んだ瞳を輝かせながら言った。声の中には、これからのことへの期待が満ちていた。弓彩も「弓彩もー!」と嬉しそうに手を挙げて駆け寄ってきた。
「へっ、でも…」
急な誘いに戸惑い、言葉がうまく出てこなかった。一緒に演奏なんて、私はピアノで奏翔とカノンのサビを弾いたことがあるだけだ。他の楽器なんて、リコーダーや鍵盤ハーモニカぐらいしか触ったことがない。そんな私が未弦たちと同じ舞台に立つなんて、どんな楽器であれ無理だと思った。
「大丈夫。楓音にぴったりな楽器、見つけてあるから。練習もサポートするし、藤井先生もいるから安心して!」
未弦は優しく私を勇気づけるように言い、弓彩も続けて「そうそう。フルートっていう楽器でね、小鳥のさえずりみたいな音が出るんだよー。ちょっと習得は難しいかもしれないけれど、弓彩もいるから大丈夫」と声をかけてくれた。
でも、フルートと言われても、その楽器の姿が浮かばなかった。これまで耳にしたこともなかったからだ。
「いいな。俺も楓音と演奏したい。実は俺も楓音に合う楽器を考えていたんだ」
すると、隣に座っていた奏翔がスマホを取り出し、意気揚々とフルートの画像を見せながら言った。銀色の細長い横笛で、一見リコーダーの横笛バージョンのように見える。単純にリコーダーと同じように吹けばいいのだろうと思い、私は頷いた。しかし、その楽器があんなに難しいものだとは、この時の私はまだ知らなかった。
午後5時を過ぎ、一緒に夕食を楽しんだ後、未弦の家族と奏翔に「今日はありがとう。またね」と手を振って別れた。体は疲れていたけれど、心はすっきりと軽かった。
その時、私は全く思いもしなかった。奏翔との関係に、突如として高い壁が立ちはだかろうとしていることなんて。こんな時、私はそんなことを考える余裕すらなかったのだ。