「問題は、これからどうするかだねぇ」
「負担を減らすために、しばらくこちらで暮らすのも一つの手だろう」
未弦の両親が微笑みながら提案してくる。眉を八の字に下げていて、おそらく私の過労癖を直すために、父と距離を置こうとしているのだろう。
その少し不安げな表情に、私の心もじわりと重くなる。
「あと、普通クラスに移動させることだな」
「茂雅さんとその佐竹暁則さんが、それを条件に隠蔽をしたらしいから、許してくれるかどうか」
「もしこれが世間に知られたら大変なことになるからな」
茂雅は私の父さんの名前だ。うーん、と顎に手を当てながら、二人とも迷っている様子だった。
「ちょっと待って!弓彩の話、聞いて」
そこに、弓彩が割って入ってきた。真剣な眼差しで、何か大切なことを伝えに来たようだ。普段の甘えん坊で短気な彼女らしくない、珍しい表情をしている。
「どうしたの?」
突然の切り出しに、両親は驚いたように目を丸くし、顔を見合わせた。その時、辺りに緊張した空気が漂い始める。
「弓彩ね、実は楓音の母さんが生きてること知ってたんだ。舞台でバイオリン弾いてる時に変な人を見かけたの」
彼女は両親と私の顔を見つめながら、含みのある口調で言った。舞台、つまりコンクールか定期演奏会でのことらしい。
「へ、変な人?」
「不審者っぽい人。帽子とサングラス、マスクをしてて、すごく怪しかったの」
私が聞き返すと、弓彩は少し語気を強めた。その瞬間、胸の中に不安が広がる。もしかしたらナイフや拳銃でも持っていたのではないかと、頭をよぎった。
「弓彩、まさかその人に近づいてないわよね?」
「うん、近づいたよ」
恐る恐る確認するように尋ねる未弦に弓彩はあっさりと頷いた。高2の私が言うのもなんだけど、なんで中2の彼女がそんなに警戒心がないんだろう。
「なんてことして――」
「それがね、遠くから見てもわかったんだけど楓音のパパだったの」
未弦の問いかけを遮るように、弓彩は言った。その言葉に驚きと共に、思わず安堵が胸に広がった。
「慌ててマスクとサングラスを取って、不審者じゃないですって言ってたの。それでね、聞かせたい人がいるからって録音してましたって」
「や、やめろー!黙ってろって言っただろ。父さんの黒歴史を暴露するなー!」
その時、いつの間にか帰ってきた父がドタバタと慌てふためきながら割り込んできた。顔は真っ赤で、焦っている様子が見て取れた。
「茂雅さん、今の話、本当なの?」
「その聞かせたい人って誰なんだ?」
未弦の両親が取り調べのように問い詰めるが、父の制止も虚しく、すでに時遅し。全員がその一部始終を聞いてしまったことは明らかだった。
「負担を減らすために、しばらくこちらで暮らすのも一つの手だろう」
未弦の両親が微笑みながら提案してくる。眉を八の字に下げていて、おそらく私の過労癖を直すために、父と距離を置こうとしているのだろう。
その少し不安げな表情に、私の心もじわりと重くなる。
「あと、普通クラスに移動させることだな」
「茂雅さんとその佐竹暁則さんが、それを条件に隠蔽をしたらしいから、許してくれるかどうか」
「もしこれが世間に知られたら大変なことになるからな」
茂雅は私の父さんの名前だ。うーん、と顎に手を当てながら、二人とも迷っている様子だった。
「ちょっと待って!弓彩の話、聞いて」
そこに、弓彩が割って入ってきた。真剣な眼差しで、何か大切なことを伝えに来たようだ。普段の甘えん坊で短気な彼女らしくない、珍しい表情をしている。
「どうしたの?」
突然の切り出しに、両親は驚いたように目を丸くし、顔を見合わせた。その時、辺りに緊張した空気が漂い始める。
「弓彩ね、実は楓音の母さんが生きてること知ってたんだ。舞台でバイオリン弾いてる時に変な人を見かけたの」
彼女は両親と私の顔を見つめながら、含みのある口調で言った。舞台、つまりコンクールか定期演奏会でのことらしい。
「へ、変な人?」
「不審者っぽい人。帽子とサングラス、マスクをしてて、すごく怪しかったの」
私が聞き返すと、弓彩は少し語気を強めた。その瞬間、胸の中に不安が広がる。もしかしたらナイフや拳銃でも持っていたのではないかと、頭をよぎった。
「弓彩、まさかその人に近づいてないわよね?」
「うん、近づいたよ」
恐る恐る確認するように尋ねる未弦に弓彩はあっさりと頷いた。高2の私が言うのもなんだけど、なんで中2の彼女がそんなに警戒心がないんだろう。
「なんてことして――」
「それがね、遠くから見てもわかったんだけど楓音のパパだったの」
未弦の問いかけを遮るように、弓彩は言った。その言葉に驚きと共に、思わず安堵が胸に広がった。
「慌ててマスクとサングラスを取って、不審者じゃないですって言ってたの。それでね、聞かせたい人がいるからって録音してましたって」
「や、やめろー!黙ってろって言っただろ。父さんの黒歴史を暴露するなー!」
その時、いつの間にか帰ってきた父がドタバタと慌てふためきながら割り込んできた。顔は真っ赤で、焦っている様子が見て取れた。
「茂雅さん、今の話、本当なの?」
「その聞かせたい人って誰なんだ?」
未弦の両親が取り調べのように問い詰めるが、父の制止も虚しく、すでに時遅し。全員がその一部始終を聞いてしまったことは明らかだった。