それから奏翔は、未弦の思いを柔らかくも重みのある口調で再び代弁してくれた。
「未弦先輩は、楓音が自分を避けがちになっても、どうしても一緒にいたくて諦められなかったんだ。受験のとき、特進クラスを目指そうとしてたけど、バイオリンと弓彩との夢を優先して普通クラスを選んだってさ。どれだけ自分を責めても、バイオリンを弾いてるときだけは心が救われてたんだって。それが彼女にとっての支えで……でも、それだけじゃなくて、誰かの笑顔が、同じように彼女を支えてたんだ」
私は息を詰め、奏翔の言葉に耳を傾けた。未弦がそんな気持ちを抱いていたなんて、私は何も知らなかった。
「そして、未弦先輩が何度も楓音に話しかけ続けたのは、いつか自分の声やバイオリンの音が、楓音の心に届くと信じてたからだよ」
奏翔が話す間、斜め向かいに座る未弦は、何度も首を縦に振り、涙に濡れた目で奏翔の言葉を肯定していた。私は信じられなかった。未弦が私のためにバイオリンを弾いていたなんて――思いもよらなかった。あの力強く優しい音色、そして弓彩の演奏。それがすべて、私に向けられていたなんて。
ふたりの演奏に心打たれ、あの頃、何度も拍手を送った。手が痛くなるほど応援したけれど、楽器なんて無理だと思っていた私は、ただの観客でしかなかった。それなのに、事故の後、私は未弦たちのバイオリンを聴きに行くことさえやめてしまった。私は自分が「人殺し」だと罪を抱え、誰とも関わってはいけないと心を閉ざしたのだ。
「……未弦」
その名前を口にするたび、胸が締め付けられる。私のせいで未弦との距離を置いていたのに、彼女はそれを自分のせいだと思い込んでいたなんて。どうして、私はその優しさに気づこうとしなかったんだろう。未弦のことが、こんなにも優しいと知っていれば……。
「楓音はな、未弦先輩にとって、最初にできた友達であり、幼馴染なんだよ。耳がどうとか、そんなの全然関係ないんだってさ。むしろ、自分のせいで楓音がこうなったんだとしたら、何だってして治してやりたいと思ってたんだ。楓音は迷惑をかけると思って距離を置いてたかもしれないけど、先輩は全然そんなこと思ってない。むしろ、もっとそばにいてほしいって」
奏翔の笑みには、未弦の思いが込められていた。その言葉に、未弦はまた涙ぐみながら首を縦に振った。彼女の目はまっすぐ私を見つめていた。
「なんで……?」
心の奥から疑問が湧いてきた。私なんかに、どうしてそこまでしてくれるの?
奏翔が静かに言った。「未弦先輩は、楓音が本当は優しい人だって知ってるからだよ。な?」
奏翔が私を見つめ、問いかけるように言った。未弦は、懐かしそうに遠くを見つめていた。
「覚えてない?」未弦はそう問いかけた。彼女の声が、どこか懐かしい。
「優しい」なんて、自分が言われるなんて思ってもいなかった。罪の意識で頭がいっぱいで、自分が優しい人間だなんて考えたこともなかったから。
「楓音が言ったんだろ? 弓彩さんのもうひとりの姉になるって。家が近いっていう理由で。でも、俺はそれ以上に強い覚悟があったんじゃないかって思うよ」
奏翔は真剣な表情で、どこか寂しげに話した。その口調には慎重さが滲んでいた。彼の言葉に耳を傾けながらも、私はどこか戸惑っていた。
「そんな強い覚悟なんてないよ……」私は未弦に向かって言い放った。「ただ、弓彩がかわいくて、この子に笑っていてほしいって思っただけなんだよ」
その瞬間、ずっと心に抱えていた言葉が、ようやく口を突いて出た。「ごめんね……ずっと言えなくて」
あの時、その気持ちを伝えることが恥ずかしくて、ずっと黙っていたことを後悔していた。今はただ、未弦の優しさと、それに応えられなかった自分が悔しかった。
「未弦先輩は、楓音が自分を避けがちになっても、どうしても一緒にいたくて諦められなかったんだ。受験のとき、特進クラスを目指そうとしてたけど、バイオリンと弓彩との夢を優先して普通クラスを選んだってさ。どれだけ自分を責めても、バイオリンを弾いてるときだけは心が救われてたんだって。それが彼女にとっての支えで……でも、それだけじゃなくて、誰かの笑顔が、同じように彼女を支えてたんだ」
私は息を詰め、奏翔の言葉に耳を傾けた。未弦がそんな気持ちを抱いていたなんて、私は何も知らなかった。
「そして、未弦先輩が何度も楓音に話しかけ続けたのは、いつか自分の声やバイオリンの音が、楓音の心に届くと信じてたからだよ」
奏翔が話す間、斜め向かいに座る未弦は、何度も首を縦に振り、涙に濡れた目で奏翔の言葉を肯定していた。私は信じられなかった。未弦が私のためにバイオリンを弾いていたなんて――思いもよらなかった。あの力強く優しい音色、そして弓彩の演奏。それがすべて、私に向けられていたなんて。
ふたりの演奏に心打たれ、あの頃、何度も拍手を送った。手が痛くなるほど応援したけれど、楽器なんて無理だと思っていた私は、ただの観客でしかなかった。それなのに、事故の後、私は未弦たちのバイオリンを聴きに行くことさえやめてしまった。私は自分が「人殺し」だと罪を抱え、誰とも関わってはいけないと心を閉ざしたのだ。
「……未弦」
その名前を口にするたび、胸が締め付けられる。私のせいで未弦との距離を置いていたのに、彼女はそれを自分のせいだと思い込んでいたなんて。どうして、私はその優しさに気づこうとしなかったんだろう。未弦のことが、こんなにも優しいと知っていれば……。
「楓音はな、未弦先輩にとって、最初にできた友達であり、幼馴染なんだよ。耳がどうとか、そんなの全然関係ないんだってさ。むしろ、自分のせいで楓音がこうなったんだとしたら、何だってして治してやりたいと思ってたんだ。楓音は迷惑をかけると思って距離を置いてたかもしれないけど、先輩は全然そんなこと思ってない。むしろ、もっとそばにいてほしいって」
奏翔の笑みには、未弦の思いが込められていた。その言葉に、未弦はまた涙ぐみながら首を縦に振った。彼女の目はまっすぐ私を見つめていた。
「なんで……?」
心の奥から疑問が湧いてきた。私なんかに、どうしてそこまでしてくれるの?
奏翔が静かに言った。「未弦先輩は、楓音が本当は優しい人だって知ってるからだよ。な?」
奏翔が私を見つめ、問いかけるように言った。未弦は、懐かしそうに遠くを見つめていた。
「覚えてない?」未弦はそう問いかけた。彼女の声が、どこか懐かしい。
「優しい」なんて、自分が言われるなんて思ってもいなかった。罪の意識で頭がいっぱいで、自分が優しい人間だなんて考えたこともなかったから。
「楓音が言ったんだろ? 弓彩さんのもうひとりの姉になるって。家が近いっていう理由で。でも、俺はそれ以上に強い覚悟があったんじゃないかって思うよ」
奏翔は真剣な表情で、どこか寂しげに話した。その口調には慎重さが滲んでいた。彼の言葉に耳を傾けながらも、私はどこか戸惑っていた。
「そんな強い覚悟なんてないよ……」私は未弦に向かって言い放った。「ただ、弓彩がかわいくて、この子に笑っていてほしいって思っただけなんだよ」
その瞬間、ずっと心に抱えていた言葉が、ようやく口を突いて出た。「ごめんね……ずっと言えなくて」
あの時、その気持ちを伝えることが恥ずかしくて、ずっと黙っていたことを後悔していた。今はただ、未弦の優しさと、それに応えられなかった自分が悔しかった。