スピード違反は奏翔を気遣って落としてるからまず違う。なら信号無視かと辺りを見渡すが信号すらない。ちゃんと左側を走っているし、どこが罪に問われると言うのだろうか。
 私の様子に気づいたのか奏翔も走る足を止め振り返る。しかし、私と同じで何を言っているのかわからないのか、一言も言い返そうとはしない。
「君、何をしたかわかってる?」
 首を傾げるとおまわりさんの額にシワが寄った。口調も頭ごなしだし、怒っているのが目に見えてわかる。
「ヘッドフォンつけてますよね?道路交通違反として、親御さんに連絡してもらいますよ」
 その言葉を言われてようやく合点がいった。また勘違いされているのだ。まさかこんなことになるとは思いもしなかった。自分がより一層異物と見られている気がして怖い。街行く人も怪しむようにこちらをジロジロと見ている。その視線が突き刺すようで逃げ出したくなる衝動が湧く。
 そうだ。この状況をいっそ利用してしまおう。奏翔と距離を取るために。
 無言でスピードを上げてふたりから一気に距離を取る。まるでひき逃げかなんかをしているみたいだ。奏翔は追いかけてこない。きっとおまわりさんと話をつけているのだろう。
 こんな私も最低だ。今すぐこの世から消え去った方がいいだろうと自転車のスピードをさらに上げる。 
 へとへとになるまで走り、ペダルを漕ぐ足を止めた。が、あまり時間が経ってない気がする。
 そもそも帰宅部の私は大会に出るような並ハズレた体力を持ち合わせていない。体力テストをしても1番下から探した方が圧倒的に早いぐらいだ。