ちょっとしたことでもさらっとやってしまうから、なんだか自分が頼りなく感じてしまう。そこが未弦と似ているなと思った。でも、素直に感謝する気持ちを言葉にするのもなぜかためらわれる。
「行こう。さすがにふたり乗りはダメだし俺、隣走るから」
 奏翔はこれから向かう方向を指差しながら言った。けれど走るなんて自転車とは全然違うから、無理をさせてしまうかもしれない。だから、隣を歩く方がいいだろう。でも私は、距離を置きたい。ならある程度スピードは落とすつもりだけれど、差が出るのは言わずもがなだし、これでようやく手を離してくれるだろう。
 ヘルメットは急ぎすぎて忘れたので、被ることもなく自転車にまたがる。
 予想通りに奏翔は手を離してくれて、私のスピードに走ってついてきてくれる。そういえば、奏翔は何でここまで来たのだろうか。電車か。私には騒がしすぎてとても乗れない以前の理由がある。それを今はさておいといて、余裕がありすぎる彼のことだから歩きで来ているような気もする。
「ちょっ、君……」
 しばらく自転車に乗っていると後の方から声がした。小さいし、聞き間違いかもしれないと判断して突き進む。
「君、止まりなさい!」
 チリンチリンとベルを鳴らしてその声は近づいてきた。何事だろうかとブレーキをかけながら振り返ると、中年の男おまわりさんが険しい剣幕をしてこちらをギロリと睨んでくる。
「すいませんね、デート中に」
「えっ……」
 私、何かしたっけ?おまわりさんが止めてくるぐらいだからやばいことをやらかしたに違いない。