とりあえずまだ中2の時に倒れる前の母さんに買ってもらった半袖のねずみ色と黒のワンピースを着用してみる。とても地味で暗く傍から見たら葬式に行くみたいだが、サイズはぴったりだし他にこれといった服装はというか服の数すら少なくて選びようがない。昨日のうちに1人で服屋に寄って何か買っておけばよかったと今更ながらに後悔する。
 でもこれにするしかない。それに防音イヤーマフの全体が丸見えなのもいけない気がするし、帽子でも被っていた方がいいのかもしれない。
 そうあれこれと戸惑っているうちに約束の5分前を切っていた。もちろん、歩きでは間に合わない。昼食をとる暇すらなく自転車にまたがり、猛スピードでペダルをこぐ。その行為をきっかけにあんなことになるなんて思いも寄らなかった。
 天気は少し雲がたなびいているだけでなんで私に味方してくれないんだと悪態をついた。雷が落ちたり嵐にでもなれば必ず中止になるというのに。梅雨の時期のはずなのに。
 図書館に着くころには息が切れていて、胸が苦しくなるほどだった。まるで過呼吸になったみたいで、呼吸が乱れ肺が痛む。それでも足を止めるわけにはいかないと、必死に自動ドアをかいくぐる。冷たい空気が一瞬心地よく感じたが、それもすぐに焦りと混ざり合い、再び息苦しさが襲ってきた。
 さすがに図書館の中は静かに早歩きで歩き回り、必死で奏翔を探す。あんなに執拗に誘ってきたのだから私より随分先についているに違いない。怒られたり心配されたり、待ちくたびれたとかと悪態をつかれたりするだろう。
 頬には汗が伝うのも構わず、チラチラと辺りを見渡しながら歩き回る。まるでかくれんぼでもしているみたいだ。