一緒に弾いていた時は必死に落ち着こうとしていたはずなのに恥ずかしさが一気に込み上げ、ようやく言葉がコミュ症っぽいものに戻ってしまう。でも昨日よりかは随分と打ち解けた気がした。強引なところがあるけれど優しいのは確かで、今更「やっぱりつきあうとかいや」とは言えない。
「元気そうでよかった。ありがとね、譜久原くん」
 さすが!と未弦が微笑む。その目元は赤く腫れていた。相当私のことを思って心配してくれていたのが目に見えてはっきりとわかってくる。
 心は軽い。奏翔と温かくて濃密な時間を過ごしたからだろうか。
 今なら言える気がする。特進クラスにいる理由まで言える勇気は持ち合わせていない。けれど、これだけは言っておきたい。
「ごめんね、未弦。話の途中で逃げ出したりして」
 彼女に近づきながら顔をしっかりと見る。
「うん、大丈夫。楓の気持ちはわかりにくいからさ、なんかあったらいつでも言いなよ」
 未弦は私に優しい笑みを向けてくれた。
「ありがとう」
 口ではそう言いながらも、心の中ではごめんねと反芻するように繰り返していた。
 こんなにも最低な私に気を遣わせてしまって申し訳ない、と。
 でも犯した罪は明かせない。生涯が終わるその時まで隠し通し墓場まで持っていくつもりだ。
 絶対に明るみにでるわけにはいかない。人殺しと非難されてもされなくても私には生きていく場所がないのだけれど、それでも。