「……血、出てる。俺、バンソウコウなら常備してるから、じっとしてろ」
 奏翔は私の足にスマホのライトを当て、真剣な表情で言った。
「しなくていい」
「いや、やる。それくらいはさせて」
 拒否しても、彼は間髪入れずに、断固として腕にかけていた黒いハンドバッグを探り、バンソウコウを取り出した。奏翔のことだから、私が何回反論しようが、彼はやると言って聞かないだろう。
「スマホ持って、照らしてて。ちょっと痛むかもしれないけど、我慢してくれ」
 奏翔がスマホをこちらに渡しながら言った。私は黙って頷き、それを受け取って自分の足を照らす。彼はそれを確認すると、1枚1枚丁寧にバンソウコウを貼り付けていった。
 すべての傷口にバンソウコウを貼り終えると、奏翔は「よし、これで多少は大丈夫だろ」と言った。彼にスマホを返すと、ライトが消され、そのまま奏翔は私の隣に座り込んだ。そして口を開く。
「おまわりさんには話をつけてきた。なんとか理解してもらえたし、親には連絡されずに済んだよ」
 その言葉に、ほっと胸を撫で下ろす。しかし、同時にふつふつと怒りが湧き上がってくる。どうしてこんなにも執拗に私と関わろうとしてくるのか、と。
「そんな報告はいらない。それより、別れよう。もう、ほっといて!!」
 怒りに任せて叫び、逃げようとするが、すぐに腕を強く掴まれ、引き止められる。
「ほっとけないよ。まだ傷が痛むだろうし、じっとしてて。それに、俺が迷惑かけたなら謝るよ。でも、まだ1週間も経ってないし、別れるなんて言わないでくれ」
 奏翔は優しい口調でゆっくりと首を横に振り、お願いだから、と懇願してきた。その言葉に胸が締め付けられる。
「びしょ濡れにさせたし、おまわりさんにも押し付けた。最低でしょ?だから、離してよ」
 こんな私なんかに付き合わないでほしい。構わないでほしい。迷惑をかけたのは私の方だ。
 逃げようと足を動かし、掴まれている腕を振り払おうとするが、奏翔はもう片方の手でも私の腕を強く掴み、両手でぐいっと引き戻してきた。まるで逃さないと言わんばかりだ。
「離さねぇ。ぜってーに離さないから」
 奏翔は真剣な眼差しで誓うように言い放った。
「俺は、楓音と一緒にいたくているんだ。それだけだ。お前の隣にいられるなら、どんなことをされても構わない」
「は?」
 思わず声が上擦る。まるで自暴自棄じゃないか。目の前に犯罪者がいて、自ら進んで人質になろうとするかのような――そんな無謀さが彼にはあった。
「バカじゃないの? 殺されるかもしれないんだよ」
 現に私は人殺しだ。人の可能性や未来、命そのものを奪ってしまった。そして、またいつか誰かを殺してしまうかもしれない。
「それでもいいさ。たとえ幽霊になっても、お前の隣にいられるならそれでいい」
 奏翔のすべてを許すような訴えに、私は呆然とした。こいつは本当におかしなやつだ。意地でも私から離れないつもりらしい。