「もう、いやだ……」
 首から下げてワンピースの中に隠していたペンダントを取り出し、そこにあるおばあちゃんの写真を見つめながら呟いた。涙がにじみ出し、嗚咽が漏れる。
 あと何回、こんな目に遭わなきゃいけないんだろう。そんなにおかしいの、私って。世界がどうかしてるんじゃないの? あと何回、ヘッドフォンと勘違いされたりするんだろう。あと何回、死にたい、消えたいって気持ちになったらいいんだろう。
「人は涙の数だけ強くなれる」――そんな言葉もあるけれど、私の場合は強くなるどころか、ただ途方に暮れるばかりだ。
 あと何回泣けばいいんですか?
 そうどこかにいる卑怯な神様に問いかけたくて仕方ない。
 これも、人殺しと非難されないための代償なのだろうか。なら、無言で受け入れるべきだ。こんな感情も、壊れてしまえばいい。
 私はカバンから黄色いカッターを取り出し、ワンピースの裾をめくって斬りつける。何回も、何回も。
 いつしか遊具の外では雨が叩きつけるように降り出し、雷と強風が荒れ狂っていた。だから、さすがに奏翔はもう帰っただろうと思っていたのに。
「楓音!」
 唐突に聞こえたのは、切羽詰まった声。それと共に、遊具の中に飛び込んでくる音。そして即座に、ぐっと掴まれる私の腕。その手には、もちろん、カッターが握られている。
 顔を上げなくてもわかる。この3日間、何度も聞いた声。奏翔だ。
「なんで……?」
 私は普通なら見過ごされるはずの場所に隠れていたはずなのに、どうして彼はこんなにも執拗に私を見放さないのだろう。奏翔は傘も持たずに、赤茶髪とおしゃれな服をびしょ濡れにしながら、嵐の中を相当走り回って私を探してくれていたことがわかる。私のせいで彼が風邪をひくかもしれない。そう思うと、申し訳なさが一層募った。
「言ったろ。もし逃げたら、そこが地獄の果てでも追いかけるって。それより、こんなのはやめてくれ。その写真に映ってる人が今の楓音見たら悲しむだろうし、危ないから。これは俺が預かっておく」
 奏翔は当然だと言わんばかりに言い放ち、もう片方の手で強引にカッターを取り上げ、ズボンのポケットにしまい込んだ。掴まれていた腕は、ようやく解放された。
 もしかして、奏翔には未来が見えるのだろうか。だからこそ、私が逃げようとするのを見透かして、あんな言葉を口にしたのだろうか。そんなことはないと思いつつも、納得してしまう自分がいる。私が何度拒否してもデートに誘ってきたのも、彼が私の行動を見通していたからかもしれない。