その声色があまりにもユーモラスで、思わずお腹を抱えて笑ってしまう。体がどうにかなってしまいそうだ。
「……わ、笑った。やっと笑ってくれた」
「へ?」 
 そのつぶやきに我に返り、声が上擦る。ようやく自分が笑っていたことに気づき、恥ずかしさが込み上げた。頬が熱くなり、言葉がうまく出てこない。奏翔はそれを構わず「こっち、向いてよ」と席を立ち、私の手を引きながら斜め下から顔を覗き込んでくる。
「や、やめてー!私今すんごく顔変だから目元ととか腫れてるだろうし……」 
 その手を振り払いながら慌てて顔を両手で覆いそっぽを向いた。
「ハハハッ……ハハハハッ」
 すると背後からは奏翔の笑い声が聞こえてきた。一体何がおもしろいというのだろうか。私は恥ずかしすぎてたまらないというだけなのに。
「な、なんか変!?」
 そう言いながらも振り返ると奏翔は私以上に笑い転げていた。無邪気すぎて小学生みたいだ。相当私の様子がおもしろおかしいらしい。
「だってハハハハッ、こんなの初めてだからハハッ……」
 しばらく爆笑してから奏翔は「あー、久しぶりに笑った」と満足そうに弾けるような笑顔を見せた。
「笑いすぎだよ……私がおかしくなっちゃったみたいじゃない」
 その様子にまた本音がだだ漏れになる。コミュ症の私がこんなに素直になるなんてまるで人格まで変わってしまったみたいだった。 
「ピアノ弾いててよかったあ……俺今人生で一番幸せかも」
 奏翔は笑顔を崩すことなく、本当に嬉しそうに笑う。その姿を見て「大げさだよ……」とまた笑みがこぼれてしまう。謙遜するつもりではあったが、自分自身も今が一番幸せな瞬間なのかもしれない。
「そうか?まぁ、そうかもな」
 ふたりでまたクスクスと笑う。その感覚は図書室で泣き崩れていた嫌な気持ちが嘘だったかのように、すっかり吹き飛ばしてくれた。
「今の曲、名前とかあるの?」
 落ち着きを取り戻してから一番気になったことを聞いてみる。昨日のような初対面の気まずさはどこにもなかった。興味の方が勝ってしまったのだ。