ただ防音イヤーマフをしていただけ。不快な音から自分を守るために。
 けれど周囲からはヘッドフォンだと誤解され、まるで音楽を聴いているかのように見られてしまう。
 その歌詞がテストの答えになっているのではないか。はたまた、リスニングのように答えを聞いているのではないか。そう疑われても仕方がないことだ。
 離れたところからひそひそとささやかれる声が、すべて自分の悪口に聞こえてくる。全部が全部そうではないと、自分に言い聞かせようとするけれど、目の前の光景が不信感を膨らませた。
 こんな羽目に遭うのは入学してから受けた定期テストの数だけある。私はそれに一度もいやともこれは防音イヤーマフですとも否定せず、ただ黙り通して相手がしびれを切らすのを待っている。まるで女王様のようだが、これは人殺しと非難されない代わりの罰だ。さすがに先生は私のことをわかってくれているため、校長室に連れて行かれたりはしない。
 とはいえ身の毛がよだち、体が大木に縛り付けられたようにすくんで動けない。ここから逃げ出してしまいたい。幽霊のように姿さえ消えてしまえばいいのに。
 いや、こんな感情さえ消えてしまえば、楽にこの状況をやり過ごせるのに。
 そう、こっそりとため息をついたその時だった。
「自己紹介忘れたのか?それ、防音イヤーマフだぞ」
 真っ暗闇な世界に唐突に射す一筋の希望か。張りのある声と共に見知らぬ青年が素早く割り込んできた。詰め寄ってきたクラスメイトは強引に押しのけられている。
 そして、目を点にした私の腕をしっかりとつかむと、無言のままぐいっと引っ張ってくる。