「きっと次はなんとかなるって。特進クラスじゃ範囲全然違うから役に立たないかもしれないけど……って、ちょっと待ってよ楓音」
 戸惑う未弦を置いて私は猛スピードで廊下を駆け出した。廊下は走ってはいけないと先生に言われるかもしれないが、今回は見逃してほしい。
 ひょっとすると私には人殺しと非難されなくとも生きていける場所はないのかもしれない。
 そもそも私はこんな世界を生きたいのか。その問いの答えはもちろん、生きたくない。でも自殺は罪も条件も放棄しているような気もする。
 だから私はこの刑務所のような世界を生きなければいけない。隣に誰もいない、たったひとりぼっちで。
 でも死にたい。消えたいっていう気持ちは無性に湧いてくる。
 そんな気持ちになったのは今回で何度目だろうか。10本の指だけではとても数え切れないし、これといった数も覚えていない。
 顔を上げないまま、階段を駆け上がる。人が行き来していたりはしなくて、3階の廊下の方からざわざわとする声が聞こえてくるだけだ。おかげ醜い顔を見られずに済む。
 最上階にたどり着き、図書室に閉じこもる。本当は屋上に登って、そこから飛び降りたいところだ。でも足が重たい。引き戸を閉めた途端、力が抜けてその場に膝を抱えて座り込む。
 非常用のハシゴはといえば、本棚に立て掛けてある。ただそこまで行く気力がない。力が入らなくてハシゴなんてより一層重たく感じたりするのだろう。それに昼休みになったら泉平くんや奏翔が訪ねてきたりする。
 でもなんとか体を動かして逃げ出せばいい話。それまではこのままでいさせて。
 苦虫を噛み潰すように歯を食いしばる。そう抵抗してみてもにじみだした涙は止まってくれない。
 心を閉ざした一匹狼の私が、こんなことをしてしまうなんて。顔も見ようとせず、一目散に逃げるなんて。
 もう、誰にも合わせる顔がない。特に父さんには。あのテストを見られてしまったら間違いなくこの世の終わりだ。