「そ、奏翔」
 頬を赤く染めてわなわなと震えた口で呼ぶと奏翔はニヤリと嬉しそうに「なんだい?楓音」と笑いかけてくる。その顔も小学生みたいに幼く見える。私より身長が低いから尚更だ。
「な、なんの楽器弾いたりするの?」
 さっき図書室で双見さんが絶対音感があると言っていたのだからそれなりに音楽はプロなみなのだろう。ある音を単独に聴いた時にその音の高さを絶対的に認識する能力。うまれながらに天才的で羨ましいなと思った。
「ピアノだよ。俺、クラシックとかよく弾くんだ。ピアノ弾いてる時が一番楽しい。今度の定期演奏会でも弾くんだ」
 両手でピアノを弾くジェスチャーをしながら奏翔は楽しそうに言った。その動きが本当に一音一音聴こえてくるようで音楽を何より大好きなのがひと目でわかる。
「ちなみに楽采はクラリネット、三羽先輩はトランペット担当だよ。ふたりともいつもはバカみたいにじゃれ合ってるけどさ、演奏になるとすごく息が合うんだ」
 それから付け足すように奏翔は自慢した。思い出してみると確かに黒い筒のようで、てかてかと光る丸い銀色を押しながら息を吹き込むと鳴るクラリネット。メガホンに金色を塗ったような感じでそれを長くして丸く飛び出した3つのものを押しながら息を吹き込むと鳴るトランペット。 
 ふたりの感じではチグハグしそうだなとは思うが、それなりに仲が良いバカップルっぽかったし、案外息が合うのかもしれない。
「あとバイオリン姉妹もすごい。音楽室でよく3人で合わすんだけどさ、それを聞いた藤井先生がいつも寝てる。その寝顔がまさにごくらくと言っているようでさ、よっぽど聞き心地がいんだろうな」