どれほどの時間が経ったのだろう。授業をサボっているのは、言うまでもない。体調を崩すことが多く、皆勤ではないが、このままではいけないと頭ではわかっている。それでも、体は動かず、涙も止まらない。鏡を見たら、きっとひどい顔をしているだろう。
パタパタパタパタ。
ふと階段の方から足音が聞こえる。誰だろう。音楽の授業があって、藤井先生が上がってきたのかもしれない。それならいい。図書室に用があるわけではないだろう。ただ、私は息を殺し、足音が遠ざかるのを待つしかなかった。
念のため、ちらりと振り返って鍵を確認する。しかし、その鍵が古くて壊れていることを思い出し、勢いよく開けられたら逃げ場がないことに気づく。そのことにまだ昼休みでもないのに、心の中で「終わった」とつぶやく自分がいた。
「そこにいるのか、楓音」
そこへ低く落ち着いた声が引き戸越しに図書室の静寂を破った。まるで全てを見透かしているかのような、余裕と自信に満ちた声。声の主は確かめるまでもない。奏翔だ。まだ関わり始めたばかりなのに、なぜ話しかけてくるのだろう。しかも、こんな時に限って。授業をサボってまで、私の心に土足で踏み込んでくるつもりなのか。しばらく落ち着いたら声をかけるとかにしてほしい。むしろ、嫌ってほしい。
彼の優しさは感じるが、今の私にはその優しさが重荷にしかならない。
「開けなくていいよ。俺も無理に開けたりしないから」
その声には、優しさと強さが同居していて、どこか安心感を与えた。私の気持ちを理解しているかのような配慮を感じる。開けろと言ってくるかと思っていたが、予想外だった。声を殺していても、こちらにいることはバレているらしい。
すると、引き戸越しに座る音が聞こえた。今、私たちは引き戸を隔てて背中合わせに座っているのだろうか。
彼の存在を感じながらも、心の中の不安と孤独はなかなか消えなかった。でも、どこか少しだけ温かさが広がっていく。
「未弦先輩から聞いたよ。謝りながら泣きついてきて、びっくりしたよ。どうしたらいいか分からなくて、唯一の友達なのに情けないって。今は三羽先輩に預けてるから、安心していいよ」
奏翔の声は落ち着いていて、顔が見えないから彼の感情は読み取れない。でも、未弦も奏翔も私のことを心配してくれているのはわかる。素直に自分の気持ちを伝えられないのは、私のほうだ。
パタパタパタパタ。
ふと階段の方から足音が聞こえる。誰だろう。音楽の授業があって、藤井先生が上がってきたのかもしれない。それならいい。図書室に用があるわけではないだろう。ただ、私は息を殺し、足音が遠ざかるのを待つしかなかった。
念のため、ちらりと振り返って鍵を確認する。しかし、その鍵が古くて壊れていることを思い出し、勢いよく開けられたら逃げ場がないことに気づく。そのことにまだ昼休みでもないのに、心の中で「終わった」とつぶやく自分がいた。
「そこにいるのか、楓音」
そこへ低く落ち着いた声が引き戸越しに図書室の静寂を破った。まるで全てを見透かしているかのような、余裕と自信に満ちた声。声の主は確かめるまでもない。奏翔だ。まだ関わり始めたばかりなのに、なぜ話しかけてくるのだろう。しかも、こんな時に限って。授業をサボってまで、私の心に土足で踏み込んでくるつもりなのか。しばらく落ち着いたら声をかけるとかにしてほしい。むしろ、嫌ってほしい。
彼の優しさは感じるが、今の私にはその優しさが重荷にしかならない。
「開けなくていいよ。俺も無理に開けたりしないから」
その声には、優しさと強さが同居していて、どこか安心感を与えた。私の気持ちを理解しているかのような配慮を感じる。開けろと言ってくるかと思っていたが、予想外だった。声を殺していても、こちらにいることはバレているらしい。
すると、引き戸越しに座る音が聞こえた。今、私たちは引き戸を隔てて背中合わせに座っているのだろうか。
彼の存在を感じながらも、心の中の不安と孤独はなかなか消えなかった。でも、どこか少しだけ温かさが広がっていく。
「未弦先輩から聞いたよ。謝りながら泣きついてきて、びっくりしたよ。どうしたらいいか分からなくて、唯一の友達なのに情けないって。今は三羽先輩に預けてるから、安心していいよ」
奏翔の声は落ち着いていて、顔が見えないから彼の感情は読み取れない。でも、未弦も奏翔も私のことを心配してくれているのはわかる。素直に自分の気持ちを伝えられないのは、私のほうだ。