ほどなくしてチャイムが鳴り、教室は「終わったー!」という活気のある解放感に包まれた。しかし、私にとってそれは絶望の意味での「終わった」だった。
答案用紙には消しゴムのカスが散らばり、どの解答にも1%の自信すらないままタイムアップを迎えてしまったからだ。問題は極めて難しく、空和高校の特進クラスのレベルを痛感する。
別に、将来学びたいことやなりたい職業があってこの学校を選んだわけでもない。そもそも最初から選べる道が3本しかなかった。それだけだ。
私は過去に人を殺した。その罪を隠すため、ここにいる。
『進学校の特進クラスに在籍し、学年トップを維持して、その後、医者か看護師か介護士になれ』
それが私の罪を隠蔽するために課された条件だ。だからどうしても守らなければならない。罪が公にならず、「人殺し」と非難されないために。
――お前のせいで母さんは事故に遭ったんだ。せっかく生まれるはずだった弟も死んだ。だからお前は人殺しなんだ――
ふいに父さんの罵るような声が頭の中で蘇り、蚊を払うように頭を振った。
テストが終わると、自分の席。つまり、窓際の一番後ろへ戻ることができる。ついさっきまでは出席番号順でちょうど真ん中の席に座っていたので、元の席に戻ると肩の力がふっと抜けた。しかし、その安堵は束の間でしかなかった。
「高吹さん、いつもそれつけてるよね?」
「テスト中にもつけて、何聞いてんだよ?」
席に着くなり、詰め寄ってきたのは数人のクラスメイト。ある者はいじわるそうに笑い、またある者は嘲笑するようにケラケラと笑っている。その視線や態度が、見えない圧力となって私を押しつぶすかのようだった。
カンニングでもしてたんじゃないか?
そんな疑いの視線が向けられるたび、胸の奥がじわじわと痛み始めた。
もちろん、私はそんなことをする人間ではない。ただ、防音イヤーマフをつけていただけだ。不快な音から自分を守るために。
しかし、周囲にはそれがヘッドフォンに見え、まるでテスト中に音楽を聴いていたかのように思われてしまう。
その歌詞の中に答えがあったのではないか。
はたまたリスニングのように答えを聞いていたのではないか。
そう誤解されても仕方がない状況だった。
遠くから聞こえてくるひそひそ声は、すべて自分への悪口に聞こえてくる。全てがそうではないと自分に言い聞かせみるが、目の前の光景が不信感を膨らませた。
入学してから、私は定期テストのたびにこんな目に遭ってきた。もう何度目だろうか。
でも一度として「防音イヤーマフだ」とか「カンニングなんてしていない」と反論や抵抗はしたことはない。ただ黙って、相手が諦めるのを、もしくは次のチャイムが鳴るのを待っているのみだ。まるで罰を背負わされたかのように。
幸い、先生は私を理解してくれているので、校長室に呼び出されることはない。
それでも、こうした状況に身が震え、体がすくんでしまう。
逃げ出してしまいたい。幽霊のように姿さえ消せたらいいのに。
いや、そもそもこんな感情さえ消えてしまえば、もっと楽にやり過ごせるのに――。
そう思いながら、ため息をついたその時だった。
答案用紙には消しゴムのカスが散らばり、どの解答にも1%の自信すらないままタイムアップを迎えてしまったからだ。問題は極めて難しく、空和高校の特進クラスのレベルを痛感する。
別に、将来学びたいことやなりたい職業があってこの学校を選んだわけでもない。そもそも最初から選べる道が3本しかなかった。それだけだ。
私は過去に人を殺した。その罪を隠すため、ここにいる。
『進学校の特進クラスに在籍し、学年トップを維持して、その後、医者か看護師か介護士になれ』
それが私の罪を隠蔽するために課された条件だ。だからどうしても守らなければならない。罪が公にならず、「人殺し」と非難されないために。
――お前のせいで母さんは事故に遭ったんだ。せっかく生まれるはずだった弟も死んだ。だからお前は人殺しなんだ――
ふいに父さんの罵るような声が頭の中で蘇り、蚊を払うように頭を振った。
テストが終わると、自分の席。つまり、窓際の一番後ろへ戻ることができる。ついさっきまでは出席番号順でちょうど真ん中の席に座っていたので、元の席に戻ると肩の力がふっと抜けた。しかし、その安堵は束の間でしかなかった。
「高吹さん、いつもそれつけてるよね?」
「テスト中にもつけて、何聞いてんだよ?」
席に着くなり、詰め寄ってきたのは数人のクラスメイト。ある者はいじわるそうに笑い、またある者は嘲笑するようにケラケラと笑っている。その視線や態度が、見えない圧力となって私を押しつぶすかのようだった。
カンニングでもしてたんじゃないか?
そんな疑いの視線が向けられるたび、胸の奥がじわじわと痛み始めた。
もちろん、私はそんなことをする人間ではない。ただ、防音イヤーマフをつけていただけだ。不快な音から自分を守るために。
しかし、周囲にはそれがヘッドフォンに見え、まるでテスト中に音楽を聴いていたかのように思われてしまう。
その歌詞の中に答えがあったのではないか。
はたまたリスニングのように答えを聞いていたのではないか。
そう誤解されても仕方がない状況だった。
遠くから聞こえてくるひそひそ声は、すべて自分への悪口に聞こえてくる。全てがそうではないと自分に言い聞かせみるが、目の前の光景が不信感を膨らませた。
入学してから、私は定期テストのたびにこんな目に遭ってきた。もう何度目だろうか。
でも一度として「防音イヤーマフだ」とか「カンニングなんてしていない」と反論や抵抗はしたことはない。ただ黙って、相手が諦めるのを、もしくは次のチャイムが鳴るのを待っているのみだ。まるで罰を背負わされたかのように。
幸い、先生は私を理解してくれているので、校長室に呼び出されることはない。
それでも、こうした状況に身が震え、体がすくんでしまう。
逃げ出してしまいたい。幽霊のように姿さえ消せたらいいのに。
いや、そもそもこんな感情さえ消えてしまえば、もっと楽にやり過ごせるのに――。
そう思いながら、ため息をついたその時だった。