三羽先輩が性懲りもなく入らそうとするが、すかさず奏翔がどんと言ってのけた。期間限定ではあるものの、公にされると余計に意識してしまい、頬には冷や汗が伝う。
「あらそう。譜久原くんみたいに勝手に入らしたのかと思った」
 しかし、藤井は気にもしてないらしく、ニコニコと微笑みながら私の向かい側に座ってきた。
「あの……勝手にって、今みたいにですか?」「いや、楽采に連れてこられて三羽先輩に入部届無理矢理書かされた。5人以上入らないと廃部になるからって」
 藤井に問いかけると、奏翔が答えてくれた。口を尖らせて迷惑そうにしている。廃部回避のためとはいえ、かわいそうだ。
「譜久原くんにはね、絶対音感があるの」
「そ、そうそう……生かさなきゃ、もったいない」
 泉平くん達は便乗するように理由を述べてくる。
「ごめん俺、練習行かなきゃ。楓音はどうする?」
 奏翔は席を立ちながら問いかけてきた。絶対音感は気になるが、音楽室に行けば間違いなく未弦と弓彩がいる。
 特に短気で甘えん坊な弓彩は一緒にやろうよとせがんでくるに違いない。そんなことをしていたら特進クラスから落ちかねない。加えて音楽は選択科目となっており、私は静かな美術の方を選択している。だから聴覚過敏になってからは一度も楽器に触ろうとしていない。
 でも……。
「ちょっと、見学していこうかな」
 帰ろうとすれば三羽先輩達にまた止められそうな気がするから。
「気遣わなくていいからな。楽采達は俺が抑えとくから」
 しかし、奏翔は優しく笑いかけてくれる。
「じゃ、帰ろうかな」
 そのお言葉に甘えようと席を立った。