――いいか? 次、1位を取れなかったら――
 父さんには、1年生の時からずっとこう脅されてきた。難問ばかりだから、多少大目に見てくれていたのかもしれないが、今回はさすがに堪忍袋の緒が切れて、とうとう公にされるに違いない。
 これで、完全に終わりだ――。
 そう思いながら、力なく項垂れ、教室と廊下を隔てる窓にもたれかかった。俯いても、髪が顔を覆うことはない。防音イヤーマフが落ちてくる髪を止めてくれている。いっそのこと外してしまおうか。その方が、誰の顔も見ずに済む。けれど、廊下は喧騒に溢れているから、それも無理だ。
「うち、普通クラスの中で一番取っちゃった!全然、自信なかったのに……あれ、楓音?」
 そこへ隣から明るい声が聞こえてきた。しかし、だんだんとその声がしおれるように小さくなっていく。顔を上げなくても、誰だか分かる。未弦だ。
「あ……」
 未弦は順位表を見て、私の様子を察したのか、一瞬言葉を失った。
「そんなこともあるよ、大丈夫だって。次頑張ろう。なんなら、うちが教えるよ」
 が、すぐに励ましの言葉をかけてくれる未弦。彼女なりの気遣いだろうけれど、今の私には全く響かなかった。その言葉に、心の中で小さな火が灯る。
 未弦みたいだったらよかった。成績も良くて、クラスの人気者。きっと私に課された条件なんて、簡単にこなせるだろう。赤子の手をひねるように。
 その小さな火に、感情が加わり、怒りの炎がブワッと大きくなる。頭に血がのぼり、怒りが湧いてきた。正直、話しかけてほしくなかった。見て見ぬふりをしてほしかった。
 未弦の言葉が、どうしても嫌味やマウントを取っているように聞こえる。
 どう? うちすごいでしょ?って。
 優等生気取りだろうか。未弦は姉御肌な性格だが、それはおせっかいとも言える。避けているはずなのに、性懲りもなく話しかけてくるところが、どうしても鬱陶しく感じる。
 彼女の言葉が、遠回しに私の心に突き刺さり、深い傷を残す。こんなこと、聞きたくもなかった。もう放っておいてほしい。早くこの場を去りたかった。
「きっと次はなんとかなるって。特進クラスじゃ範囲が全然違うから、役に立たないかもしれないけど……って、ちょっと待ってよ楓音!」
 戸惑う未弦を置いて、私は猛スピードで廊下を駆け出した。先生には廊下を走ってはいけないと言われているけれど、今回は見逃してほしい。