「じゃあ、あたし顧問の先生呼んでくる。あと入部届もらってくる」
 三羽先輩は張り切った様子で図書室を出ていこうとする。泉平くんも「おう。行って来い」と私の言葉を完全に無視していた。これは無理矢理入らされることになりそうだ。まだ見学すらもしてないというのに。
「また、勝手に入らそうとしてるだろ」
 しかし、救いか。引き戸の音がし、そこから現れたのは奏翔であった。濃い琥珀色の目で泉平くん達を睨んでいる。
「へ、そんなことないよ!?」
「無理矢理勧誘なんかしてないって」
 当の本人達は焦り慌てながらもごまかそうとした。部員ガチャとしてはハズレな感じしかない。そもそもどんな部活だろうと入る気はないけれど。それなりに騒がしいとこなのだから。
「いや、してるだろ?しらばくれんな」
 奏翔はため息混じりに吐き出した。それから奏翔は堂々と私の隣の席に座ってくる。 
「ごめんな、あいつらバカップルでさ。やっぱここに呼ぶべきじゃなかったな。でも他に呼ぶとこ思いつかないし……」
「いえ……」
 そして申し訳なさそうに肩をすくめてきたので、無理に微笑んでみせる。
「譜久原くん、練習は音楽室よ。あら、楓音さんじゃないの。入部希望?」
「入部した――」
「違います。俺のカノジョです」
 そこへ藤井が入ってきた。彼女は音楽教師であり、吹奏楽部の顧問も担当している。アーモンド型の眉と目にゆるくパーマをあてたような長い髪が柔らそうな雰囲気を醸し出していた。