「譜久原くん、練習は音楽室よ。あら、楓音さんじゃないの。入部希望?」
「入部した――」
「違います。俺のカノジョです」
そんな中、藤井先生が入ってきた。三羽先輩はまたしても入部を勧めようとしたが、奏翔が「どん!」とすかさず言い切った。期間限定の関係とはいえ、こうして公にされると、さすがに意識してしまい、頬に冷や汗が伝う。
「あらそう。譜久原くんみたいに無理矢理入部させられたのかと思ったわ」
しかし、藤井先生は気にする様子もなく、ニコニコと笑いながら私の向かいに座った。
「あの……無理矢理って、今みたいにですか?」
「いや、楽采に連れてこられて、三羽先輩に無理矢理入部届を書かされたんだ。5人以上入らないと廃部になるっていうからさ」
尋ねると、奏翔が少し迷惑そうに答えてくれた。確かに廃部を避けるためとはいえ、ちょっとかわいそうだ。
「譜久原くんには、絶対音感があるんだよね?楽采」
「おう、それを生かさないともったいないだろ」
泉平くんたちは理由を付け加えるように言ってくる。
「ごめん、俺、練習に行かなきゃ。楓音はどうする?」
奏翔は席を立ちながら私に尋ねた。彼がどんな楽器をやっているのか気になるけれど、音楽室に行けば未弦と弓彩がいるだろう。特に短気で甘えん坊な弓彩は「一緒にやろう」とせがんでくるかもしれない。いや、今は弓彩とは疎遠だから、そっぽを向かれて終わるだけかもしれない。どちらにせよ、そんなことをしていたら特進クラスから落ちるかもしれないし、私は選択授業でも静かな美術を選んでいる。だからか、聴覚過敏になってから、楽器には一度も触れていない。
でも……。
「ちょっと、見学していこうかな」
帰ろうとすれば、また三羽先輩たちに引き止められそうだ。
「気にしなくていいよ。楽采たちは俺が抑えておくから」
私の言葉に奏翔は優しく笑いかけてくれる。
「じゃあ、帰ろうかな」
その言葉に甘えて席を立とうとしたが、藤井先生に止められた。
「せっかくだし、二人であっちで話してきたら?」
どうやら藤井先生は、恋愛を応援したいタイプらしい。腕を勢いよく真上に上げ、天井を指差した。つまり、屋上を示しているようだ。
「先生、どこ指してるんですか? ……って、雨が止んでる。でもそれより、定期演奏会が迫ってるんですよ」
「練習サボって本ばかり読んでた楽采には、言われたくないよ〜」
「萌響ー!」
「だってあたしは、ただ正論を言っただけだもん〜」
泉平くんたちはふざけ合いながら黒いケースから楽器を取り出した。どちらも細長い楽器だが、色や形が少し違っている。楽器の名前が思い出せないほど、久しぶりに見る光景だった。
「入部した――」
「違います。俺のカノジョです」
そんな中、藤井先生が入ってきた。三羽先輩はまたしても入部を勧めようとしたが、奏翔が「どん!」とすかさず言い切った。期間限定の関係とはいえ、こうして公にされると、さすがに意識してしまい、頬に冷や汗が伝う。
「あらそう。譜久原くんみたいに無理矢理入部させられたのかと思ったわ」
しかし、藤井先生は気にする様子もなく、ニコニコと笑いながら私の向かいに座った。
「あの……無理矢理って、今みたいにですか?」
「いや、楽采に連れてこられて、三羽先輩に無理矢理入部届を書かされたんだ。5人以上入らないと廃部になるっていうからさ」
尋ねると、奏翔が少し迷惑そうに答えてくれた。確かに廃部を避けるためとはいえ、ちょっとかわいそうだ。
「譜久原くんには、絶対音感があるんだよね?楽采」
「おう、それを生かさないともったいないだろ」
泉平くんたちは理由を付け加えるように言ってくる。
「ごめん、俺、練習に行かなきゃ。楓音はどうする?」
奏翔は席を立ちながら私に尋ねた。彼がどんな楽器をやっているのか気になるけれど、音楽室に行けば未弦と弓彩がいるだろう。特に短気で甘えん坊な弓彩は「一緒にやろう」とせがんでくるかもしれない。いや、今は弓彩とは疎遠だから、そっぽを向かれて終わるだけかもしれない。どちらにせよ、そんなことをしていたら特進クラスから落ちるかもしれないし、私は選択授業でも静かな美術を選んでいる。だからか、聴覚過敏になってから、楽器には一度も触れていない。
でも……。
「ちょっと、見学していこうかな」
帰ろうとすれば、また三羽先輩たちに引き止められそうだ。
「気にしなくていいよ。楽采たちは俺が抑えておくから」
私の言葉に奏翔は優しく笑いかけてくれる。
「じゃあ、帰ろうかな」
その言葉に甘えて席を立とうとしたが、藤井先生に止められた。
「せっかくだし、二人であっちで話してきたら?」
どうやら藤井先生は、恋愛を応援したいタイプらしい。腕を勢いよく真上に上げ、天井を指差した。つまり、屋上を示しているようだ。
「先生、どこ指してるんですか? ……って、雨が止んでる。でもそれより、定期演奏会が迫ってるんですよ」
「練習サボって本ばかり読んでた楽采には、言われたくないよ〜」
「萌響ー!」
「だってあたしは、ただ正論を言っただけだもん〜」
泉平くんたちはふざけ合いながら黒いケースから楽器を取り出した。どちらも細長い楽器だが、色や形が少し違っている。楽器の名前が思い出せないほど、久しぶりに見る光景だった。