それから一ヶ月後。私の聴覚過敏の症状はようやく治まりを見せ、約1年3か月片時も着け続けていた防音イヤーマフともお別れをした。
図書室登校をやめ、新しい教室へ行くと、もちろん未弦は隣の席に座っていて、私が授業についていけるよう、優等生としてサポートしてくれた。
「あの演奏すごかった!またコンクールとか出るなら絶対聞きに行く!」
「隣で弾いてた人、誰?なんか楓音ちゃん以上にうまかったけど」
「もしかして付き合ってんの?」
さらには、定期演奏会には未弦のクラスメイトが全員来てくれていたおかげで、私は一躍クラスの人気者となり、晴れて一匹狼を卒業した。数人の友達もでき、からかわれていたばかりの学校生活はいつの間にか華やかな日々に彩られていた。
演奏会での私の姿は、クラスメイトたちの記憶に強く残ったらしい。緊張しながらも1%でも自分に自信を持ち、全力で演奏したその瞬間が、私を新たな仲間たちと結びつけてくれた。クラスメイトを呼んでくれた未弦には頭が上がらない。
それでも、昼休みは図書室を訪れ、弁当を奏翔と共に食べているし、放課後は一緒にピアノを弾き、登下校も手を繋いで、休みになれば必ずデートへと出かけている。母さんの病院にも頻繁に一緒に顔を出していて、母さんは奏翔に「ありがとう」と伝えていた。
もちろん十唱の来世の幸せも祈っている。虹がでようが、流れ星がでようがずっと。
奏翔の存在は私にとって心の支えとなり、彼も教室で私と一緒に弾いていたことが噂となり、筆談を交えながらも色々話しかけられるようになった。泉平くんの曲に興味を持つ人も増え、ふたりとも血の繋がった人としか話そうとせず孤立していたはずが、今ではクラスに馴染みつつあるらしい。
聴覚過敏だった私にとって、静けさは喧騒で乱された心を安らげてくれるものであり、心の安定剤のような存在だ。防音イヤーマフをつけるだけで、まるで温かい毛布に包まれた天国にいるかのような安心感を得られる。
しかし、彼にとって静けさは、生涯が終わるその時まで続く永遠であり、ある意味では地獄のようなものだ。人の声やさまざまな音をどんなに聞きたいと思っても、決して聞けないのだから。その時間が長ければ長いほど、その間に生じる不可抗力が増えれば増えるほど、彼の孤独と辛さは深まるに違いない。
だから、私はいつまでも奏翔の隣にいよう。奏翔が隣にいてくれるのなら、私はきっとこの世界を笑って生きていける気がするから。たとえこの先、何度「死にたい」とか「消えたい」と泣き暮れる日々が訪れようとも、どんなに辛い時や、心が折れそうな瞬間が訪れても、それでも私は立ち上がれる。奏翔が隣にいてくれる限り、私は負けない。彼の笑顔と優しさが、私に勇気を与えてくれる。
君の隣で、私は今日もピアノを弾き、笑顔で彼と生きていくのだ。
完
図書室登校をやめ、新しい教室へ行くと、もちろん未弦は隣の席に座っていて、私が授業についていけるよう、優等生としてサポートしてくれた。
「あの演奏すごかった!またコンクールとか出るなら絶対聞きに行く!」
「隣で弾いてた人、誰?なんか楓音ちゃん以上にうまかったけど」
「もしかして付き合ってんの?」
さらには、定期演奏会には未弦のクラスメイトが全員来てくれていたおかげで、私は一躍クラスの人気者となり、晴れて一匹狼を卒業した。数人の友達もでき、からかわれていたばかりの学校生活はいつの間にか華やかな日々に彩られていた。
演奏会での私の姿は、クラスメイトたちの記憶に強く残ったらしい。緊張しながらも1%でも自分に自信を持ち、全力で演奏したその瞬間が、私を新たな仲間たちと結びつけてくれた。クラスメイトを呼んでくれた未弦には頭が上がらない。
それでも、昼休みは図書室を訪れ、弁当を奏翔と共に食べているし、放課後は一緒にピアノを弾き、登下校も手を繋いで、休みになれば必ずデートへと出かけている。母さんの病院にも頻繁に一緒に顔を出していて、母さんは奏翔に「ありがとう」と伝えていた。
もちろん十唱の来世の幸せも祈っている。虹がでようが、流れ星がでようがずっと。
奏翔の存在は私にとって心の支えとなり、彼も教室で私と一緒に弾いていたことが噂となり、筆談を交えながらも色々話しかけられるようになった。泉平くんの曲に興味を持つ人も増え、ふたりとも血の繋がった人としか話そうとせず孤立していたはずが、今ではクラスに馴染みつつあるらしい。
聴覚過敏だった私にとって、静けさは喧騒で乱された心を安らげてくれるものであり、心の安定剤のような存在だ。防音イヤーマフをつけるだけで、まるで温かい毛布に包まれた天国にいるかのような安心感を得られる。
しかし、彼にとって静けさは、生涯が終わるその時まで続く永遠であり、ある意味では地獄のようなものだ。人の声やさまざまな音をどんなに聞きたいと思っても、決して聞けないのだから。その時間が長ければ長いほど、その間に生じる不可抗力が増えれば増えるほど、彼の孤独と辛さは深まるに違いない。
だから、私はいつまでも奏翔の隣にいよう。奏翔が隣にいてくれるのなら、私はきっとこの世界を笑って生きていける気がするから。たとえこの先、何度「死にたい」とか「消えたい」と泣き暮れる日々が訪れようとも、どんなに辛い時や、心が折れそうな瞬間が訪れても、それでも私は立ち上がれる。奏翔が隣にいてくれる限り、私は負けない。彼の笑顔と優しさが、私に勇気を与えてくれる。
君の隣で、私は今日もピアノを弾き、笑顔で彼と生きていくのだ。
完