忘れてって、なによ……今更。なんのつもり?ねぇ、ねぇ。
 嗚咽がこみ上げ、涙がこぼれそうになる中で、私は力任せに引き戸をガンガンと叩いた。だが、返ってくるのはただの木のミシミシという軋む音だけ。奏翔の声は一向に聞こえてこなかった。胸の中に膨れ上がる焦燥感と怒りをぶつけるように何度も叩き続けるが、無反応な彼に対する無力感が募るばかりだった。
 そして静寂を破ったのは、またしてもスマホの通知音だった。手を止め、ふとポケットの中のスマホを取り出し、震える指でトーク画面を開く。そこにはまた、奏翔からのメッセージが表示されていた。
【悪い。ひとりにしてくれないか。早く教室へ行ってくれ】
 わけがわからなかった。奏翔からの突然の拒絶に心が引き裂かれるようで、つらくて、どうしようもなく、いっそこの場から逃げ出してしまいたい衝動に駆られた。けれど、今日から私は図書室登校の身。教室に行ったところで、「図書室に行け」と言われ、追いやられるだけなのだ。
 まるで厄介者扱いされている。たらい回しにされているような感覚が胸を締めつける。いや、これはただの押し付け合いではなく、誰もが本気で私を遠ざけようとしているのではないか――そんな思いが頭をよぎった。
 行き場を失った私は、図書室の引き戸にもたれかかるようにして、そのまま力が抜け、ずるずると座り込んでしまう。
 冷たい床が背中を押すように感じられるが、それでも立ち上がることはできなかった。
 震える手で頭を抱え、膝に顔を埋める。まるで私だけがこの世界からひとり切り離されたかのような孤独感が、全身を覆った。
 その瞬間、今まで一筋の光が差していたはずの私の世界がまた真っ暗闇に染まった気がした。