付き合い始めて5日目。当初の1週間すらも経っていないはずなのにこんなことが起こるとは。
 予想の遥か斜め上をいった事態に足がすくみ体が鎖に縛り付けられたように動かなくなった。困惑する中、落ち着けと言い聞かせながら状況を整理しようと頭をフル回転させる。
 最初、奏翔が「1週間だけ付き合って、そのあとは迷惑だったら離れる」と言った時、私はむしろ、自分が聴覚過敏のせいで彼に迷惑をかけるのだと思っていた。
 けれど、この5日間、私は一度も「迷惑」なんて口にしていない。
 むしろ、彼と過ごす時間が心地よく感じられていた。
 彼はわがままで強引なところもあったけど、一緒に笑ってくれて、泣いてくれて、優しい人だった。借金立てだと思って警察呼ぼうか一度は迷ったけれど今は少しも悪い人だなんて思っていない。
 それなのに、どうして今、こんな風に彼が私を避けるように閉じこもってしまうのだろう。何が彼をこうさせたのか、全く理解できない。私が何かを間違えたのか、あるいは彼自身が抱えている問題があるのか。どちらにしても、こんなにもわけのわからない現実の意味を聞かずにはいられなかった。
 が、戸惑いのせいかサクサクとできていたはずの操作ができない。急にスマホの使い方を忘れてしまったかのようだった。それでも今奏翔に声をかけるのは意気地なしかもしれないが気まずすぎて無理な話だった。なんとかメッセージを打ち、送信ボタンを押す。
【どういうこと?】
【付き合ってた話は始めからなかったことにしてくれ。忘れてくれ。俺はもう楓音の隣にはいない方がいい。悪い】
 間髪入れずその冷徹な言葉が画面に表示されると、まるで心が凍りついたかのように私は動けなくなった。まさに失恋の瞬間、いや、それ以上に突き放されたような感覚だった。引き戸の前で、魂が抜けたかのごとく立ち尽くす。驚愕の他には何も感じられない。息をすることすら忘れ、ただその言葉が現実であることに愕然とするしかなかった。