幼稚園の時から春馬とは仲が良かった。家も近くて、
よく公園に遊びに行ったりもした。喧嘩なんて1度も
したことがない。昔の春馬はびっくりするくらい
小さくて、色も白くて、目もクリクリしててよく
女の子と見間違えられてたっけ。小学校低学年くらい
までは一緒に歩いてると、可愛いらしいカップルだわ。なんて言われることもチラホラあったらしい。なのに

「ゆーだい起きろー」

なのになんでこいつはこんな巨人になったんだ!?

「もう授業終わったでー」

当たり前のように同じ高校へ入学した俺らは、
あっという間に2年生になり、去年は違うクラスだった春馬とも今年は同じクラスだ。ゴールデンウィーク
明け、最初の授業が古典だった訳だが爆睡して、休み時間の今に至る。

「昔はもっと可愛いかったのになぁ」

俺は机の横に立つ身長178センチの大男となった春馬を見上げてつぶやいた。中3あたりから急激に背が伸びた春馬は、あっという間に俺を抜かして行った。今と
なっては10センチ近い差がある。

「ん?何の話??」
「なんでもない!」

悔しくなって顔を背けると、春馬は俺の耳元で、

「優大は今も昔も1番かっこいいで」

と恥ずかしげもなくささやいた。

「なっ..!?」
びっくりして思わず振り向いた俺に、春馬は何事もなかったかのようにニコリと微笑んだ。

春馬は昔からよく俺をからかってくる。この高校を選んだのだって、俺がここに通いたいと言ったかららしい。どこまで本気かはわからないが。

「それより、ゆーだいもうすぐ中間考査やけど
 大丈夫なん?」

「もうすぐ言うたって、あと1ヶ月後やろ?
 まだまだ先やわ」

「そうやってまだまだや言うてたから
去年の期末、赤点祭りなったんやろ」

「それはそうやけど...」

「な?やから」

そこまでいうと優大は、俺の机の前に立ち顔を近づけこう言った

「一緒に勉強会せーへん?」

俺をまっすぐ見つめるその瞳に思わず吸い込まれそうになった。

「...うん」

「じゃー早速今日から放課後、この教室で!」

半分無意識にこたえてしまったが、こうして俺たちの勉強会が始まった。 


「あーあ、ゆーだいくんが俺にチューしてれたらもっと勉強頑張れんのになー」
「なにアホなこと言ってんねん」

勉強会を始めて2週間がたった。悔しいが春馬の
教え方はすごくわかりやすい。さすが毎回、成績優秀者トップ10に入る男は違う。
「そもそもそんなんせんでも春馬が成績いいことくらい 知ってるからな」
「そんな言われると照れてまうなー」
「ムカつくわぁ」
背が高くて、顔もよくて、優しくて。おまけに成績優秀なんて女子から人気がでないはずがない。
はずがないのに

「なぁ春馬って好きな子とかおらんの」
「んー?おれは優大が1番やで?」
「ありがと。
 じゃなくて、春馬女子からモテモテやん?こないだ
 だって隣のクラスのめっちゃかわいい子から告白
 されたのに断ったらしいし。なんで?」
「んー可愛いとは思ったけど、話したことなかったし。てかそれ誰から聞いたん」
「みんな噂してるわ。お前が好きなやつおるから誰とも付き合わんのちゃうかって。そういえば中学のときも
告白されてるみたいなんは何個か聞いたことあるけど、彼女おるとかは聞いたことないな。
なに?春馬くん意外と一途やったりする??」

いつもだったら笑って何か言い返してくるはずの春馬がなぜか黙りこんでいる。
あまり触れてほしくない話題だったのかもしれない、とにかくこの空気をなんとかしないと。
「あー、ごめん変な話して。
 さてと勉強がんばりますか!!あはははは」
そうぎこちなく笑ったときだった。


「俺は優大のことが好きや」


一瞬時間が止まった気がした。
今まで何回も言われてきた言葉のはずなのに、緊張感がいつもと全然違う。これが冗談じゃないことくらい赤くなった春馬の顔を見たら流石の俺でもわかった。

「...いつから?」
「自覚したのは中学入ったときくらい」
「そっか」
まじか、じゃあさっきのチューがどうとかも本気で。
そう考えると顔が熱くなってきた。
「ごめん、こんなこと急に言われても困るよな。
 わすれて。」
そう言った春馬の顔は笑っているのにどこか悲しげで、最初から諦めているようだった。

「勉強会も無理してこんでいいから」

俺が1人で今までの春馬の言動を思い返している間に、帰る支度をすませていた
「寄るとこ思い出したから先帰るな」

勉強会が始まって、一緒に帰らない日なんて今まで
なかった。

…このまま、もう話さなくなるん?

急に嫌な考えが頭をよぎった。それだけは絶対嫌だ。
教室から出ようとしていた春馬の袖を思わず掴んだ。
「俺も春馬が好きや」
びっくりして春馬が振り返る
「でも、これはきっと春馬の好きとは、違うくて」
春馬のことならなんでもわかった気でいたけど、
全然わかってなかった。
「やから、返事もうちょっとだけ待って欲しい。
勉強会も春馬が嫌じゃなかったら、続けたい」
そこまで言うと春馬は俺に抱きついてきた。
「...!はるま?」
「すぐふられる思ってた」
「珍しくネガティブやな」
「そりゃ好きな子にふられたときのこと考えたら
 ネガティブにもなるわ」
「あっそ..」
「あのさ優大、それってまだチャンスあるってこと
 やんな?」
「まぁ...うん」
「そっか」
やっと離してくれたと思うと、今度はなぜか
手を握ってきた。
「絶対俺のこと好きにさせてみせるから、ちゃんと
 見といてな」
幼稚園のころなんか、毎日手なんて繋いでたはず
なのに、こんなにも心臓の音がうるさいのは
ぜんぶ春馬のせいだ。

その日からというもの、今まで気にならなかったはずの距離感とか、春馬の服の柔軟剤の匂いが気になって仕方ない。それに比べて春馬はいつも通りで、今まで通り俺のことを好き好き言ってくる。ただ、冗談じゃないと
わかってからの俺の反応は、春馬に言わせると可愛い
らしく面白がられていて、少しムカつく。正直テスト
どころではないけど、ここまで毎日一生懸命
教えてくれた春馬のためにも、ここは切り替えて
いい成績とらないと。
「よし」気合を入れて、部屋の電気をつける。
俺は迷わず机に向かった。


そしてテスト前最後の勉強会を迎えた。
俺が解いた英単語の並び替え問題を、春馬が丸つけ
してくれている。

「...すごい全部あってる」
「え、まじ、まじで?」
「うん、すごい優大!やっぱり俺の教え方が良かった
 からかなぁ」
「うん、そうやと思う」
「アレ?調子乗んなとか言わへんのや」
「いやだって事実やし、ありがと」
「改まって言われると照れるなぁ」
「照れんなよ」
「じゃーそろそろ帰りますか」
「そうやな」
明日から3日間の中間考査。
それが終わったら春馬に俺の気持ちを伝える。

テストは驚くほど順調に、あっという間に終わった。
今まででこんなに解答欄を埋めたことが高校に入って
からあっただろうか。それくらいスラスラ解けた。
それを春馬に喜んで報告すると、
「そりゃ教えた甲斐がありますわ」
と優しく頭を撫でてきた。なんだかくすぐったくて、
でも嬉しかった。続々とテストが返ってきた。
特に英語は赤点かどうかスレスレだった俺からは
考えられない、70点という好成績。返された時、
担当の先生から頑張ったなと褒められた。他の教科も
今までとは比べものにならない好成績だった。そして、今日ついに成績表が返ってきた。俺はいつも300人中200位くらい。でも今回は春馬と頑張ったから...


昼休み、俺は春馬に放課後、教室に残るよう伝えた。
春馬はなんの話か察したのか、少し緊張した様子で
「わかった」と答えた。

初めての告白が幼馴染で親友の、しかも男からなんて
まったく想像していなかった。でも、

ガラガラと教室のドアが開く
「待たせてもてごめんな、先生にプリント持って
 行ってたら遅くなってもた」
「全然大丈夫」
春馬は少し不安げな顔をしていた。俺は1度心呼吸する
「春馬」
「はい」
「俺、今回のテスト、順位めっちゃ良かった」
春馬は、予想外の言葉に一瞬ポカンとしていたが、すぐ
「そっか、よかったな」と笑ってくれた。

「俺90位なんかはじめて取った。春馬に比べたら
 全然やけど、それでもめっちゃ嬉しかった。
 ほんまにありがとう」

「それは優大が真剣に取り組んだ結果やろ。
 お疲れさま」

「それでさ春馬、あの後色々考えた」
「うん」

「俺、告白されたのはじめてで、しかも相手が春馬っていうことにめっちゃびっくりした」

「...うん」

「でも、それから春馬が俺の名前呼ぶたびに、なんか
ドキドキするし、正直なんか目合わせるのも
恥ずかしなった」

「なんやねんそれ笑」
「で、なんでなんやろって考えたときやっと気づいた」

今までみたいな関係に戻れなかったら、嫌われたら
どうしよう。怖い。春馬はこんな気持ちに耐えて、俺に告白してくれたんだ。
だから、ここだけは絶対目をみて言うって決めてた。


「春馬好きや、俺と付き合って欲しい」


ついに言ってしまった。顔が熱い。
でもちゃんと伝えられた。そう思っていると、

「ほんまに?」「え?」
「友達やから断りきれへんくてとか、
 そんなんじゃなくて?ちゃんと俺のこと」

そこまで言うと春馬は急に泣き出した
「ごめんっ、泣くつもりなかったのに、嬉しくて、
 夢やったら一生覚めんでいい」
「夢ちゃうわ」
そう言っていつの日か春馬が俺にしてきたように、
しっかりと抱きしめた。

「今まで気づかんくてごめんな。遅なったけど、
俺めっちゃ春馬のこと好きやわ」

改めて向かい合った。春馬はまだ少し泣いている。
泣き虫なところは昔と変わっていない。そして俺は
片膝をつき、手をさしだしてもう一度問いかけた。

「俺と付き合ってくれますか?」

すると春馬は涙を拭い、少しはにかんで
「もちろん」
と俺の手をとった。

そして俺たちが付き合ってから、数日が経った。
付き合ったといっても前とたいして変わりはない。
テスト対策として始めた勉強会だったが、春馬と
相談した結果そのまま継続することになった。
一緒にいれる時間が長いのは...まぁ嬉しい。

「そーいえば春馬はテスト何位やったん」
「えー聞きたい?」
「言いたくないなら別に」
「1位」
「まじで?」
「まじ」
「俺が90位で喜んでたときどんな気持ちやったん」
「可愛いなぁって」
「ふざけんな」

「で、なんかご褒美でもくれんの??」
「え、あぁ。ジュースくらいやったら奢ってあげても
 いいけど」

「うーん、ジュースか。それやったらぁ、
 優大クンからのキスがいい♡」

「またそんなふざけたことを...」

「じょーだんやって笑
 でも告白の返事してくれたときのゆーだい、
 ほんまにイケメンやったわぁ。だってひざまずいて
 『俺と付き合ってくれますか?』やで?
 思い出しただけでキュンキュンするわ笑
 さすが俺の認めたお・と・こ♡」

こいつは本当に...
「なぁゆうだいまたあれやって...」

   チュ

「..え」
「ご褒美。」
「...え、あぁ、うん、ありがと。」
少しの間、お互いの顔が恥ずかしくて見れなかった。