しばらくカリカリと鉛筆の音が部屋に響いた。
大体、3×10の23乗個のパソコンが動かせるくらいらしい。だが、数字がデカすぎて訳が分からない。3億台のパソコンを1億セット用意して、それをさらに1千万倍……。もう頭がついて行かない。
だがまぁ、MAXこのくらいの計算力が出せることは分かった。
で、この世界をシミュレーションしようと思ったら、例えば分子を一台のパソコンで一万個担当すると仮定すると、3×10の27乗個の分子をシミュレートできる計算になる。
これってどの位の分子数に相当するのだろう……? 俺は首を傾げる。
続いて人体の分子数を適当に推定してみると……、2×10の27乗らしい。なんと、太陽丸まる一個の電力を使ってできるシミュレーションは人体一個半だった――――。
俺は計算結果を見て、愕然とした。
つまり、この世界をコンピューターでシミュレーションするなんて無理なことが分かった。究極に頑張って莫大なコンピューターシステム作っても人体一個半程度のシミュレーションしかできないのだ。この広大な世界全部をシミュレーションするなんて絶対に無理という結果になってしまった。
もちろん、パソコンじゃなくて、もっと効率のいいコンピューターは作れるだろう。でもパソコンの一万倍効率を上げても一万五千人分くらいしかシミュレーションできない。全人口、街や大地や、動植物、この広大な世界のシミュレーションには程遠いのだ。
俺は手のひらを眺めた。微細なしわがあり、その下には青や赤の血管たちが見える……。生々しいほどにリアルだ。
拡大鏡で拡大してみると、指紋が巨大なうねのようにして走り、汗腺からは汗が湧き出している。こんな精密な構造が全部コンピューターによってシミュレーションされているらしいが……、本当に?
鑑定の結果から導き出される結論はそうだが、そんなコンピューターは作れない。一体この世界はどうなっているのだろうか?
俺は頭を抱え、深くため息をついた。窓の外では、月が雲間から顔を覗かせている。
この世界の真実は、俺の想像を遥かに超えているのかもしれない……。
俺はギリッと奥歯を鳴らした。
少なくとも今の俺には世界の真実が見えてこない。数式と数字が踊る紙面を俺はパン! と叩いた。
「はっ! そうじゃないとな。女神様、上等じゃないか!」
俺は月に向かってこぶしを突き上げた。分からないからこそ面白い。俺は机に向かい直すと、ノートをめくって新しいページを出した。
「よし、もう一度最初からだ! この世界の仕組みを、絶対に解き明かしてみせる」
決意を新たにして、俺は別の想定で再び計算を始めた。外では、夜が更けていく。しかし、俺の探求心は燃え盛っていた。
◇
世界の解明が一向に進まず、行き詰っていた時、金属カプセルの素材が届いた――――。
鐘とフタになる鉄板と、シール材のゴム、それからのぞき窓になるガラス、それぞれ寸法通りに穴もあけてもらっている。裏の空き地で、朝の柔らかな光が金属の表面を艶やかに照らしていた。
これからこれを使って宇宙へ行くのだ――――。
俺は大きく深呼吸をした。朝の冷たい空気が肺に染み渡る。
この世界が仮想現実空間であるならば、俺が宇宙へ行くのは開発者の想定外なはずだ。想定外なことをやることがバグをひき起こし、この世界を理解するキーになるのだ。そう、これは単なる冒険ではない。真実を追求する探訪なのだ。
俺はアバドンを呼び出した。彼には爆破事件から再生した後、勇者の所在を追ってもらっている。
朝の風が吹き、木々がざわめく中、アバドンの姿が空に現れた。
「やぁ、アバドン、調子はどう?」
俺は手をあげて挨拶する。彼の姿を見て、なぜか少しホッとした。
「旦那様、申し訳ないんですが、勇者はまだ見つかりません」
降り立ったアバドンの声には、歯痒さが混じっていた。
「うーん、どこ行っちゃったのかなぁ?」
「あの大爆発は公式には原因不明となってますが、勇者の関係者が起こしたものだということはバレていてですね、どうもほとぼりが冷めるまで姿をくらますつもりのようなんです」
勇者が見つからないというのは想定外だった。アバドンは魔人だ、王宮に忍び込むことなど簡単だし、変装だってできる。だから簡単に見つかると思っていたのだが……。
「ボコボコにして、二度と悪さできないようにしてやるつもりだったのになぁ……」
俺はこぶしを握り、ギリッと奥歯を鳴らした。
「きっとどこかの女の所にしけ込んでるんでしょう。残念ながら……、女の家までは調査は難しいです」
アバドンは申し訳なさそうに首を傾げる。
「分かった。ありがとう。引き続きよろしく!」
「わかりやした!」
「で、今日はちょっと手伝ってもらいたいことがあってね」
俺は転がっている教会の鐘を指さした。朝日に照らされた鐘が、鈍く輝きを放っている。
大体、3×10の23乗個のパソコンが動かせるくらいらしい。だが、数字がデカすぎて訳が分からない。3億台のパソコンを1億セット用意して、それをさらに1千万倍……。もう頭がついて行かない。
だがまぁ、MAXこのくらいの計算力が出せることは分かった。
で、この世界をシミュレーションしようと思ったら、例えば分子を一台のパソコンで一万個担当すると仮定すると、3×10の27乗個の分子をシミュレートできる計算になる。
これってどの位の分子数に相当するのだろう……? 俺は首を傾げる。
続いて人体の分子数を適当に推定してみると……、2×10の27乗らしい。なんと、太陽丸まる一個の電力を使ってできるシミュレーションは人体一個半だった――――。
俺は計算結果を見て、愕然とした。
つまり、この世界をコンピューターでシミュレーションするなんて無理なことが分かった。究極に頑張って莫大なコンピューターシステム作っても人体一個半程度のシミュレーションしかできないのだ。この広大な世界全部をシミュレーションするなんて絶対に無理という結果になってしまった。
もちろん、パソコンじゃなくて、もっと効率のいいコンピューターは作れるだろう。でもパソコンの一万倍効率を上げても一万五千人分くらいしかシミュレーションできない。全人口、街や大地や、動植物、この広大な世界のシミュレーションには程遠いのだ。
俺は手のひらを眺めた。微細なしわがあり、その下には青や赤の血管たちが見える……。生々しいほどにリアルだ。
拡大鏡で拡大してみると、指紋が巨大なうねのようにして走り、汗腺からは汗が湧き出している。こんな精密な構造が全部コンピューターによってシミュレーションされているらしいが……、本当に?
鑑定の結果から導き出される結論はそうだが、そんなコンピューターは作れない。一体この世界はどうなっているのだろうか?
俺は頭を抱え、深くため息をついた。窓の外では、月が雲間から顔を覗かせている。
この世界の真実は、俺の想像を遥かに超えているのかもしれない……。
俺はギリッと奥歯を鳴らした。
少なくとも今の俺には世界の真実が見えてこない。数式と数字が踊る紙面を俺はパン! と叩いた。
「はっ! そうじゃないとな。女神様、上等じゃないか!」
俺は月に向かってこぶしを突き上げた。分からないからこそ面白い。俺は机に向かい直すと、ノートをめくって新しいページを出した。
「よし、もう一度最初からだ! この世界の仕組みを、絶対に解き明かしてみせる」
決意を新たにして、俺は別の想定で再び計算を始めた。外では、夜が更けていく。しかし、俺の探求心は燃え盛っていた。
◇
世界の解明が一向に進まず、行き詰っていた時、金属カプセルの素材が届いた――――。
鐘とフタになる鉄板と、シール材のゴム、それからのぞき窓になるガラス、それぞれ寸法通りに穴もあけてもらっている。裏の空き地で、朝の柔らかな光が金属の表面を艶やかに照らしていた。
これからこれを使って宇宙へ行くのだ――――。
俺は大きく深呼吸をした。朝の冷たい空気が肺に染み渡る。
この世界が仮想現実空間であるならば、俺が宇宙へ行くのは開発者の想定外なはずだ。想定外なことをやることがバグをひき起こし、この世界を理解するキーになるのだ。そう、これは単なる冒険ではない。真実を追求する探訪なのだ。
俺はアバドンを呼び出した。彼には爆破事件から再生した後、勇者の所在を追ってもらっている。
朝の風が吹き、木々がざわめく中、アバドンの姿が空に現れた。
「やぁ、アバドン、調子はどう?」
俺は手をあげて挨拶する。彼の姿を見て、なぜか少しホッとした。
「旦那様、申し訳ないんですが、勇者はまだ見つかりません」
降り立ったアバドンの声には、歯痒さが混じっていた。
「うーん、どこ行っちゃったのかなぁ?」
「あの大爆発は公式には原因不明となってますが、勇者の関係者が起こしたものだということはバレていてですね、どうもほとぼりが冷めるまで姿をくらますつもりのようなんです」
勇者が見つからないというのは想定外だった。アバドンは魔人だ、王宮に忍び込むことなど簡単だし、変装だってできる。だから簡単に見つかると思っていたのだが……。
「ボコボコにして、二度と悪さできないようにしてやるつもりだったのになぁ……」
俺はこぶしを握り、ギリッと奥歯を鳴らした。
「きっとどこかの女の所にしけ込んでるんでしょう。残念ながら……、女の家までは調査は難しいです」
アバドンは申し訳なさそうに首を傾げる。
「分かった。ありがとう。引き続きよろしく!」
「わかりやした!」
「で、今日はちょっと手伝ってもらいたいことがあってね」
俺は転がっている教会の鐘を指さした。朝日に照らされた鐘が、鈍く輝きを放っている。