「あー、やっぱ、こんなとこにいた!」
「捜したんだぜ? 柚希くーん」

 僕は慌てて立ち上がる。
 聖亜……いや、聖亜はいない。いつも聖亜とつるんでいるやつらだ。

「聖亜は帰っちゃったけどさぁ、俺たちと遊ぼうぜ、柚希くーん」

 聖亜の仲間が五・六人、にやにや笑いながら近づいてくる。
 僕はぐっと手を握りしめたあと、背中を向けて再びフェンスをつかんだ。

「まぁ、待ってください」

 そう言って僕の制服をつかんだのは、幽霊と名乗った男子生徒だ。

「ボクがあんなやつら、ちゃちゃっと追い払ってやりますから」
「え?」

 男子生徒はにこっと笑いかけると、置いてあった僕のリュックをつかんで持ち上げた。

「うわっ! なんだあれ!」

 聖亜の仲間たちが叫んで、後ずさりしていく。
 男子生徒は楽しそうに笑いながら、仲間たちに近づいていくと、「これでもくらえ!」と漫画みたいなセリフを叫んで、リュックをやつらに投げつけた。

「ギャー!」
「逃げろー!」

 仲間たちが一目散に逃げていく。
 それを見た男子生徒が、声を立てて笑っている。
 僕はぽかんとその様子を見つめていた。

「どうですか? おもしろかったでしょ?」

 男子生徒が振り返り、僕ににっこり笑いかける。
 僕は顔をしかめて答えた。

「べつに……おもしろくはないけど」
「えー!? いじめっ子たちを、幽霊が追い払ってやったのにー?」

 男子生徒の声が、静かになった屋上に響く。
 最初かすれていたはずの声も、いまは明るく弾んでいる。
 僕はため息をつくと、リュックを拾ってつぶやいた。

「もう帰る」
「え? ちょっと待ってください! ボクを助けてほしいんですけど!」

 無視だ。無視。きっとこの人、どこかおかしい。
 それにこの人のせいで、また死ぬことができなかった。
 僕はもう一度ため息をつく。
 聖亜の、僕をにらみつける顔が浮かんで泣きたくなる。
 明日もまた、あの顔を見なくちゃいけないのか……。