「ハル!」

 薄暗くなりはじめた空の下、僕はハルに駆け寄った。

「……ユズ」
「ハル、ごめん!」

 それだけ言って、頭を下げる。
 ハルはぼんやり僕を見たあと、ふっとかすかに笑って目をそらした。

「いいです、謝らなくても。幽霊の気持ちがユズにはわからないように、ユズの気持ちもボクにはわからないんで」
「ハル……」

 僕はそっと、ハルの隣に腰かける。
 季節は春に近づいていると思っていたけど、雨上がりの空気はまだ冷たい。

「聖亜のことは……殺したいほど憎んでるよ」

 僕はそんな空気を吸い込んでから、ひとりごとのようにつぶやいた。

「だけどさっき、僕は止めてしまった。なんでか、わからないんだけど」

 ハルがまたふっと笑う。

「わからないんですか?」
「うん。わからないんだ」
「聖亜のこと、大嫌いなんでしょ?」
「うん」
「じゃあ、なんで」
「聖亜は僕の幼なじみで……はじめての友達だから……かな」

 自分で言って恥ずかしくなった。
 いままでこんな恥ずかしいこと、口にしたことなかったのに。
 そんな僕にハルが言う。

「だからって……」
「うん、わかってる。だからって、いじめられていいわけじゃない。このままでいいなんて思ってないし、なんとかしなくちゃって思ってる。僕が自分で」
「できるんですか?」

 ハルが僕の顔を見る。

「うん。なんとかする」

 どちらかが死ぬとか、そういう解決法じゃなく。
 僕が聖亜から逃げずに、昔みたいにちゃんと話ができれば……。