ぽつりと空から雨粒が落ちた。

『たすけて……』

 僕の頭に、幼いころの記憶が蘇る。
 あれは保育園のころ。雨の降りはじめた近所の公園で、何人かの小学生に囲まれている、ひとりの男の子を見かけた。

『お前いま、俺たちにボールぶつけただろ?』
『ぶ、ぶつけてない』
『は? ぶつけたじゃねーか!』
『ぶつけたんじゃない! ぶつかっちゃっただけだ!』
『お前……チビのくせに生意気なんだよ!』

 体の大きな小学生が、男の子を突き飛ばした。
 小さな悲鳴が聞こえたけれど、小学生たちの「やっちゃえ!」と言う声にかき消される。

 あのころ、まだ小さかった僕からすれば、小学生は大きくて強い人たちだった。
 だから普段の僕だったら、急いでその場から逃げ出していた。
 なのにあのとき、絡まれてた男の子が僕を見て、泣きそうな顔で言ったんだ。

『たすけて……』

 僕はぎゅっと小さな手を握りしめると、精一杯大きな声で叫んだ。

『お母さーん! こっちだよ! 早く来てー!』

 その声に小学生たちが一斉に僕を見る。
 本当は近くにお母さんはいなかった。だから僕が呼んでも来るはずはない。
 だからすごくドキドキしていた。
 嘘だってバレたら、今度は僕が……。

 でも小学生たちは、いそいそと逃げ出した。
 雨が降り出したせいもあるだろう。
 そこに残ったのは、僕と同じくらいの男の子がひとり。

『助けてくれて、ありがとう』

 ちょっと潤んだ目で、男の子が言った。
 僕が首を横に振ると、男の子は強がるように笑って、僕の両手をつかんだ。

『俺、セイア。この前引っ越してきたばっかなんだ』
『ぼ、僕はユズ』

 握り合った僕たちの手に、キラキラ光る雨粒が落ちる。
 すると聖亜がにかっと笑って僕に言った。

『ユズと俺、今日から友達な!』